次の世代に希望をつくる

69歳と70歳で自己負担が3倍近く違う理不尽。財政審資料が示した医療改革の中身

• 日々のこと

11月4日、財政制度等審議会の財政制度分科会に、財務省が社会保障に関する資料を提出しました。全132ページのうち、医療だけで約40ページあります。

私も全ページに目を通しましたが、今年も踏み込んだ内容です。

なお、これは財務省の審議会が示した「提案」の段階です。決定事項ではありません。年末の予算編成や改革工程表づくりに向けた一つの叩き台、という位置づけになります。

そのうえで医療制度改革の部分を中心に、一部にはなりますが、その中身を解説したいと思います。

長文になりますが、前半だけでもお読み下さいますと幸いです。

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まず、資料に出てくる一つの例をご紹介します。

年収300万円・単身のAさん(69歳)とBさん(70歳)が、同じ外来診療を受け、医療費が20万円かかったとします。

Aさんの自己負担は3割で6万円です。Bさんは2割負担で4万円。

ここまででも差がありますが、さらに70歳以上だけに「外来特例」という月額上限があるため、Bさんの実際の負担は2.2万円になります。

同じ年収、同じ医療。1歳違うだけで、負担は3倍近く違うわけです。

この「外来特例」とは何か。

2002年に高齢者の定率1割負担を徹底した際、急激な負担増を和らげるための「激変緩和措置」として導入されたものです。

激変緩和が20年以上続いている。これを特例と呼ぶのは無理があります。

高額療養費制度の本体には、月額上限・多数回該当・年間上限という重層的なセーフティネットが別にあります。

資料は、それに加えて年齢だけで一律に軽減する外来特例の「政策的合理性は乏しい」として、廃止を求めています。

あわせて窓口負担そのものも、年齢によらず「原則3割」を目指して着実に引き上げるべきとしています。

現状、70歳以上で3割負担なのは、70〜74歳で約11%、75歳以上で約7%にとどまります。

もちろん、反対の声もあります。

負担が増えれば必要な受診まで控えてしまい、かえって重症化するのではないか。高齢者には低所得の方が多いのではないか。

ここで資料が引いているのが、重岡仁氏の研究(American Economic Review、2014年)です。

70歳到達時に自己負担が3割から1割に下がる前後を比較したところ、外来・入院の利用は増えた一方で、死亡率や健康状態の改善効果は確認されませんでした。

逆方向で同様の研究結果もあります。

70〜74歳の負担が1割から2割に上がった際の影響を分析した西田・別所(2025年)は、健康状態を悪化させることなく受診時の支出を抑える効果があったとしています。

所得の面でも、同じ年収300万円・単身で比べると、30歳未満の可処分所得は月20.3万円、70歳以上は22.1万円です。貯蓄現在高は177万円と2,057万円で、10倍以上の差があります。

年齢で一律に線を引くより、負担能力で見るべき。資料はこれを「年齢ではなく能力に応じた負担」と表現しています。

もちろん、低所得の高齢者への配慮は前提です。

資料にもその旨が繰り返し書かれていますし、金融所得の勘案を前期高齢者にも広げることや、マイナンバーを活用した資産の把握も求めています。応能負担の精度を上げる話とセットの提案です。

そして、私が最も大事だと思うのはこの一文。

「今般の改革の目的である現役世代の保険料負担の軽減が確実に達成される制度設計とすべき」

後期高齢者医療制度の財源は、約5割が公費、約4割が現役世代からの支援金です。現役一人あたりの支援金は、2008年の制度導入時から2.1倍に増えました。

窓口負担を上げて浮いたお金が国庫に吸収されるだけで、保険料が下がらなければ意味がない。

保険料が下がらなければ、改革とは呼べません。

資料は「若者」を支える側、「高齢者」を支えられる側としてきた保険モデルには限界がある、と明記しています。

財務省の公式資料でここまで書いたことは、それ自体が大きな一歩です。

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今回の資料も興味深いのは、患者側の負担だけでなく、医療を提供する側の構造にも踏み込んでいる点です。

診療所はすでに全国で10万施設を超え、人口減少で外来需要が減るにもかかわらず増え続けています。

無床診療所1か所あたりの医師は平均1.4人。受付も検査機器もシステムも、施設ごとにバラバラに投資されています。

人口10万人あたりの無床診療所数は全国平均81.6に対し、東京の特別区では119.1です。都市部への集中は明らかです。

2025年の医療法改正で、外来医師過多区域での新規開業に一定の対応が入りました。ただ、対象は新規開業だけで、手法も事前届出や要請・勧告・公表にとどまります。

これで偏在は直るのか。資料自身が「未だ不十分」と書いています。

そこで参考にされているのがドイツです。地域・診療科ごとに必要な医師数の水準を定め、110%を超える地域では保険医の新規許可を制限しています。

資料は既存の医療機関も含めた需給調整の仕組みづくりまで提案しています。自由開業医制に手をつける、という意味で、これはかなり踏み込んだ提案です。

医学部定員についても、医師の需給は2029〜2032年頃に均衡し、その後は供給過多になる見込みです。今の定員を維持すると、2050年には18歳の約85人に1人が医学部に進む計算になります。1970年は約436人に1人でした。

理系の優秀な人材が医学部に偏り続ければ、他の分野への人材供給にも影響します。この視点が入ったのは良いことだと思います。

そして新しいアイデアが「医療人材確保負担金(仮称)」です。

医師一人を育てるには、国立大学で6年間約3,000万円の公費がかかるという試算があります。研修も保険診療の現場で行われます。

ところが、そうして育った人材が美容医療などの自由診療に流れていく。いわゆる「直美」の問題です。

そこで、美容医療などの自由診療を行う医療機関に、従事する医師・看護師の数に応じた負担を求め、地域医療の人材確保に充ててはどうか、という提案です。

美容医療の合併症を保険診療で治療している現状についても、保険給付の対象外と明確にすべきではないか、と問題提起しています。保険は病気のリスクを分け合う仕組みですから、筋の通った話です。

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薬の分野では、費用対効果評価の拡大が柱です。

資料には、1回の投与で約3億497万円の薬が例示されています。こうした高額薬が次々と保険収載される一方、日本の費用対効果評価は、対象が市場規模の大きいものなどに限られています。

価格調整も加算部分などにとどまっており、保険に入れるかどうかの判断には使われていません。

イギリスやカナダでは、保険収載の前に費用対効果を評価し、償還するかどうかの判断に使っています。

資料はこうした例も踏まえ、日本でも収載前の評価や償還可否への活用を検討すべきとしています。

ただし、革新的な新薬をきちんと評価することも同時に強調されています。何でも削るという話ではなく、メリハリをつけるという話です。

ドラッグ・ロスの懸念にも目配りが必要な分野ですので、この点は丁寧に見ていく必要があります。

このほか、薬価改定のない年でも対象品目を限定せず全品目を実勢価格に合わせる、費用対効果が見合わない医療技術は保険外併用療養や民間保険の活用を検討する、といった提案も並んでいます。

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ここまで書かれた資料が出てきたこと自体、議論の土台が整ってきた証拠だと思います。

骨太の方針2026では、高齢者の窓口負担を含む改革工程表を2026年末までに策定するとしています。年末まで、もう2か月を切りました。

材料は揃いました。あとは政治が決めるかどうか、です。私も自分の出来る立場からできる限りのことをしていきます(落選中だが)。

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音喜多駿

おときた駿
前参議院議員(東京都選挙区) 43歳
1983年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ社員を経て、2013年東京都議会議員に(二期)。19年日本維新の会から公認を受けた参院選東京都選挙区で初当選。21年衆院選マニフェストづくりで中心的役割を担う。
三ツ星議員・特別表彰受賞(第201~203国会)
ネットを中心とした積極的な情報発信を行い、ブログを365日更新する通称「ブロガー議員」。ステップファミリーで三児の父。
著書に「ギャル男でもわかる政治の話(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」、「東京都の闇を暴く(新潮社)」

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