こんばんは、おときた駿@ブロガー都議会議員(北区選出)です。
昨日は第五回市場問題PTの会議が行われ、「豊洲に市場を移転したら赤字100億円!」というセンセーショナルな見出しが報じられています。
豊洲移転なら毎年100億円赤字、都が試算
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2968598.html
この報道を見てご心配された方も少なからずいらっしゃるでしょうし、また「やっぱり豊洲市場はもうダメなんだ!」という悲観論も見られるわけですが、これは正しいとは言えません。今日はこの点について、少し解説しておきたいと思います。
まず、年間で約100億円とも言われる「赤字」の大半は減価償却費です。
減価償却費とはわかりやすく言うと、すでに発生した施設建設の費用を分割払いで払っていくイメージです。豊洲市場は建設費として2,744億円かかっており、これを毎年数十億円ずつの支出として計上し、損益計算を出していくことになります。
(市場問題PT公開資料より)
「赤字約100億円」の正体はほとんどこの減価償却費で、初年度は71億円で試算されています。これを除くと、豊洲市場で初年度に発生する赤字は27億円程度になります。減価償却費を入れのであれば、食肉市場や世田谷市場なども赤字です。
もちろん27億円というのも非常に大きな数字で、改善の余地はあると思いますし、こうした試算が今の今まで行われてこなかったことは厳しく指摘されてしかるべきです。
一方でこれくらい損益であれば、年間で180億円~200億円の利益を出している市場会計で十分に吸収できるレベルですし、中長期的な見通しでも経常損益はほぼトントンです。
公営とはいえ企業である以上、一定の収益化を目指さなければなりませんし、今後の検証でまだまだ経営改善できる余地はあると思いますが、現時点でも豊洲市場の持つ最新鋭の設備・機能に鑑みれば、理解のできる範囲に収まっていると言えるでしょう。
そしてもう一つの重要ポイントは、仮に豊洲市場への移転を取りやめたところで、この減価償却費は容赦なく発生することです。
仮に移転をやめて他で市場を整備・建設したとすれば、その建設コスト(=減価償却費)が二重に発生するので、市場会計が深刻なダメージを負うことは間違いありません。
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そして今回のPTでは、ずばり「市場・業者の経営の持続可能性」が検討されたのですが、非常に重要な論点があったので触れておきたいと思います。
まず収益が年間200億円程度しかないのに、5,884億円もの投資を豊洲市場にしたことはいかがなものか?という論点です。民間企業であればありえない!という指摘はもっともだと思います。
しかしながら、公営企業というのは収益を出すことが目的ではなく、収支均衡が望ましいとの考え方に基づいて運営されています。収益があがるくらいなら、利用者や納税者に還元されるように調整が行われますから、収益が生じないのはむしろ自然です。
だからといって赤字を垂れ流して良いわけではなく、中央卸市場に自律改革が必要なのはその通りなのですが、専門委員の方も指摘していたように、「民間ではできないからこその公営企業」という特性は抑えておく必要があります。
そして費用対効果を突き詰めるならば、そもそも行政が様々な労力をかけて運営し、使用業者には一平米あたり2,000円強という破格の賃貸料で土地を提供し、新規参入も完全に阻んでいる官製市場が存在することに、どこまでの妥当性があるのでしょうか。
そんな統制マーケットなんてやめて、民間にすべて任せてしまえ!という主張は当然にありえますし、自由主義者である私も根本的にはそうした考えに共感を覚えます。
とはいえ官製市場という存在があるからこそ、安くて安心な生鮮食品が都民に提供できるし(その分は見えないところで確実に税金に跳ね返っているのですが)、今ある市場をいきなり無くすのは現実的には不可能だよね、ということで巨額を投じての市場移転・整備という政治的決断がなされてきたわけです。
またPTの中では卸売市場法や農水省通知に基づき、市場や業者のあるべき姿についても述べられているのですが、じゃあ現在の築地市場がそれを満たしているのかといえば、決してそんなことはありません。
特に太字・色字で強調されている、「業者の経営が適切・健全であること」「関係事業者の経営の健全性の確保」という部分。
圧倒的な低賃料による競争力や、新規参入を阻む障壁に手厚く守られているにもかかわらず、築地市場で事業を営む水産仲卸事業者の5割(農林中金の調査ではなんと7割!)が債務超過に陥っており、事実上は破綻しているゾンビ状態です。
こうした中で、豊洲市場にだけ「あるべき姿」を当てはめて検証していくとすれば違和感を覚えますし、この議論を突き詰めていくと築地市場や中央卸市場そのものに厳しい判断を下さざる得ないのではないかという懸念も感じています。
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決して「作ってしまったから」「決まったことだから」仕方ないというつもりはありません。今回、このような検証が行われ、初めて11市場の各経営データが示されたことは画期的なことです。
専門委員の方が指摘するように、支出の見直しや民間活力の導入検討などで、収益は大幅に改善できる可能性もあるでしょう。
一方では目の前にある現実や、これからなされる政策決定によって生じる負担や不利益についても、冷静に考慮して判断していく必要があります。
そのための判断材料として、本日の私の検証が参考になれば幸いですし、引き続き議員という立場から市場問題の理性的な決着に向けて、政策提言を続けて行きたいと思います。
それでは、また明日。
おときた駿
参議院議員(東京都選挙区) 41歳
1983年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ社員を経て、2013年東京都議会議員に(二期)。19年日本維新の会から公認を受けた参院選東京都選挙区で初当選。21年衆院選マニフェストづくりで中心的役割を担う。
三ツ星議員・特別表彰受賞(第201~203国会)
ネットを中心とした積極的な情報発信を行い、ブログを365日更新する通称「ブロガー議員」。ステップファミリーで三児の父。
著書に「ギャル男でもわかる政治の話(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」、「東京都の闇を暴く(新潮社)」
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