次の世代に希望をつくる

中選挙区制度の再導入するなら、ぜひ「単記移譲式(STV)」の検討を

日々のこと

先般、維新がこれまでと考え方を変えて中選挙区制の復活に舵を切った点について言及したところ、

「じゃあ結局、おまえ(オトキタ)はどんな選挙制度が良いと思っているのだ?」

と聞かれたので、今日は選挙制度のお話をします。

私は保守二大政党論者なので、もともとは単純小選挙区制に近い制度が理想だと考えていました。

しかしながら、ここまで多党制が進展してくると&日本のお国柄や歴史的経緯を考えると、今から単純小選挙区制に移行するのは現実的に極めて困難…。

といっても、お金がかかり利権の温床になりがりな中選挙区制に戻すのがベストとも思えない。

そこで注目すべきだと考えているのが、アイルランドなどで採用されている中選挙区単記移譲式(STV:Single Transferable Vote) という方式です。

実はこれ、旧来の日本の中選挙区(=単記非移譲式:SNTV)が抱えていたほぼすべての問題を構造的に解決しうる、非常に完成度の高い制度です。

私はこれまで中選挙区連記制が良いかなと考えていたのですが、こちらの方が世界的に先例もあり、導入しやすさでも軍配が上がります。

というわけで、以下は中選挙区単記移譲式についての説明であります。長いですが、ご興味ある方はぜひどうぞ。


■ 「単記移譲式」とは何か?

中選挙区単記移譲式(STV)の最大の特徴は「順位をつけて投票する」ことです。

1位はAさん
2位はCさん
3位はDさん…

というように、有権者は複数候補に優先順位をつけて1票を投じます。

開票では、まず各候補の1位票を集計し、一定ライン(=クオータ)に達した候補から当選。余った票は、有権者が2位に書いた候補に“移譲”されます。

逆に最下位候補は落選し、その票は投票者が次に希望した候補に順次移り、当選者が定数に達するまで繰り返されます。

ポイントは、「入れた候補が落ちても、票がムダにならない」ということ。

これこそがSTVの最大の強みです。

ちなみに「単記」という名前がついているのは、中選挙区では当選者の分だけ投票できる(有権者が複数票を投じられる)「連記制」という仕組みがあるからです。ただこちらは、世界で導入事例はほぼありません。


■ 中選挙区単記移譲式(STV)のメリット:死票ゼロに近づき、民意が最大限反映される

日本の旧中選挙区制のような単記非移譲式では、「人気候補に票が集中して無駄になる」「票割りに失敗して大量落選」という悲劇が頻発していました。

しかしSTVでは、

  • 余剰票は次順位へ
  • 落選票も次順位へ
    票が無駄になりにくい

結果として、

  • 多様な政治勢力が議席を得やすい
  • 投票者は“正直な選好”を出しやすい
  • 特定地域・特定団体・特定候補に過度に依存しない

という、まさに“現代的な民主主義に必要な構造”が実現します。

アイルランドが長期的に多党制を維持し、安定した政権交代を可能にしているのは、このSTVの貢献が大きいと政治学では評価されています。


■ 旧中選挙区の弱点をほぼ克服できる

日本の旧中選挙区制に対しては、

  • 同一政党内の激しい競争
  • 金権政治化
  • 地盤依存
  • 票割り負担
  • 政権交代の停滞
  • 政策よりも利益誘導優先

といった批判がありました。

STV(中選挙区単記移譲式)はこれらを構造的に緩和します。

▼ 票割りの必要が激減

余剰票が“自動で移譲”されるため、党内の争いは相対的に弱まり、候補者の個人商店化が抑えられます。

▼ 政治の多様性が担保される

2位・3位の選好が活きるため、少数派の声も反映されやすい。

▼ 民意の「総量」が議席に反映されやすい

特定の候補に票が集中しても、その票は無駄にならず国政に反映される。

つまり、政治学的に言えば

“SNTV(旧日本方式)で起きていた問題の多くを、中選挙区単記移譲式はアーキテクチャ(制度設計)で解決する”

制度なのです。


■ デメリットもあるが、技術的にほぼ解消可能

もちろんSTV(中選挙区単記移譲式)にも課題があります。

  • 開票が複雑(ただしネット投票や電子化で解決可能)
  • 有権者の理解負荷が高い(でも慣れの問題)
  • 組織票が順位を揃えると強くなる可能性(これは大変)

しかし、これらは上記のように運用の工夫でほぼ対応可能です。

組織票の問題は残りますが、これが小選挙区制・単記中選挙区制でも同様なので、程度問題という見方もできます。

それよりも、民意を最大限反映するという本質的メリットの方がはるかに大きいと考えられます。ネット投票・電子投票を導入するきっかけになりえることもポイントです。


■ もし日本が中選挙区制を議論するなら

私がここで申し上げたいのは、

中選挙区を語るなら、単なる“昔の制度”ではなく
STVのような現代的・科学的な仕組みを検討すべきだ

という点です。

小選挙区の弊害が見える今、“もう一度中選挙区に戻そう”という声が出るのは理解できますが、単純な復古主義では同じ問題を繰り返しかねません。

政治制度は科学です。

実証研究が積み重なり、世界の成功例・失敗例が明らかになりつつある今こそ、
制度設計のアップデートが必要だと思います。


■ まとめ

  • 中選挙区は制度の設計次第で、まったく違う結果をもたらす
  • STV(中選挙区単記移譲式)は、死票を最小化し民意を最大反映する制度
  • 日本の旧中選挙区制の弱点を構造的に補える
  • 技術的な課題はほぼ克服可能
  • 検討するなら「復古」ではなく「アップデート」を

選挙制度は、国の未来を根本から左右する“民主主義のOS”です。

もしこのテーマをさらに国会で深掘りしていくのであれば、アイルランドなど海外視察も含めて、積極的に議論を続けて欲しいと期待するものです。

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音喜多駿

おときた駿
前参議院議員(東京都選挙区) 42歳
1983年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ社員を経て、2013年東京都議会議員に(二期)。19年日本維新の会から公認を受けた参院選東京都選挙区で初当選。21年衆院選マニフェストづくりで中心的役割を担う。
三ツ星議員・特別表彰受賞(第201~203国会)
ネットを中心とした積極的な情報発信を行い、ブログを365日更新する通称「ブロガー議員」。ステップファミリーで三児の父。
著書に「ギャル男でもわかる政治の話(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」、「東京都の闇を暴く(新潮社)

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