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国章損壊罪について論点整理をします

日々のこと

「外国の国旗・国章を損壊したときには、処罰を可能とする法律(いわゆる 刑法第92条「外国国章損壊罪」)があるのに、なぜ自国である 日の丸/ 五七の桐紋(国章) を損壊した場合には処罰規定がないのか——という指摘は、一見もっともに思えます。

しかし、ここにはいくつか重要な留意点があります。


1.「外国国章損壊罪」とは何か

・刑法92条は、

外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する」e-Gov 法令検索+2tsukuba-com.net+2
・さらに同項2は、
「前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない」――いわゆる 親告罪 の規定です。yokohama-roadlaw.com+1
・また、実務・学説では、対象となる「国旗その他の国章」が 公的に掲揚されているもの(例:大使館の国旗・国章) に限られるという見解が主流です。tsukuba-com.net+1

つまり、「外国の国旗・国章を侮辱目的で損壊した」という 外交的関係・国際儀礼的な場面 を想定した制度であり、
「自宅で私物の日の丸を燃やしたら直ちに刑事罰」という想定とは、法制度の枠組み・目的がかなり異なるわけです。


2.では、なぜ “自国の国旗・国章には同規定がない” のか

・現行制度では、日の丸や国章に対して「それを損壊したこと自体」を専ら処罰する刑法条文は、存在しません。ダーウィン法律事務所 刑事事件専門サイト
・その背景として、「外国との国交関係を保護するための罪」として94年前の制度で定められており、保護法益が「対外的な国の威信・国交」の観点から整理されてきたという解説があります。toben.or.jp+1
・つまり、「日本国旗を損壊する行為=国家に対する侮辱」という発想から即座に刑罰を定める制度設計には、別の立法的・憲法的検討が必要という指摘があります。毎日新聞


3.論点整理:私物国旗を燃やしたり落書きしたりする行為を刑罰化すべきか

このテーマをめぐって整理すべき主な論点を、下記の通りまとめます。

(1)保護すべき法益は何か?
・「国家の象徴としての国旗・国章」に対する敬意や、国家の威信という観点から保護すべきという立場。
・一方で、損壊・侮辱行為が、表現の自由・思想信条の自由(憲法21条)との関係で制限されうるという立場。
 → 私物・個人所有の国旗を用いた政治的発言(燃やす・落書きする)は、まさに思想表現・抗議行動と重なり得ます。

(2)処罰の対象・条件・範囲をどう設計すべきか?
・対象を「公的掲揚されている国旗・国章」に限定する案と、私物・非公示の掲揚物を含む案との違い。
・犯意(「侮辱を加える目的」)の有無、親告制・公訴制、量刑の重さ。
・「私物の国旗を買って落書き・燃やしたら即逮捕」といったイメージで議論が進むが、現行制度・法案案ではそう単純ではありません。

(3)言論・表現の自由との兼ね合い
・国旗損壊を処罰対象とする制度設計は、抗議表現や象徴的な行為を刑罰化する可能性を孕みます。これが「政治的表現=損壊行為」の幅を狭めることにならないか。
・例えば、「自国旗を燃やす」行為が、反体制的・批判的意思表示の形式として行われる場合、その意思表示を刑罰で抑制することは、憲法上慎重な取り扱いを要します。日本弁護士連合会
・また、先行している 日本弁護士連合会 などの法曹界からも、表現の自由侵害を懸念する声があります。X (formerly Twitter)

(4)実効性・運用可能性の観点
・先述のように、外国国章損壊罪も「外国政府の請求がなければ起訴できない」=実際に運用された例は極めて限られます。選挙ドットコム+1
・自国旗を対象とする制度を設けた場合、その運用実務・警察・検察・裁判所の負荷・線引きの困難さが予想されます。
・また、処罰すべき行為・線引き(「侮辱目的」「どの掲揚物が対象か」)が曖昧であると、法の恣意的運用・過剰抑制の懸念があります。


4.結びに代えて

したがって、次のように整理できます。

「外国国旗・国章を損壊した場合に処罰規定があることをもって、『それなら自国の国旗も同じく処罰すべきだ』という議論は、一見筋が通っているように思われるが、実際には制度の目的・対象・表現の自由とのバランス・運用実績など、慎重に整理すべき複数の論点を含んでいる。」

もし、私物の日の丸等に落書き・焼却等を行った際に第三者通報で逮捕・処罰可能とするような制度を検討するのであれば、 「ただ単に制度を整える」という話ではなく、

表現・抗議行為としての行為の性質、処罰による抑制効果、恣意的運用のリスク、曖昧な線引きが恣意的運用を招く可能性

などを 十分な議論と学術検証のうえで法案化する必要があると私は考えます。

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音喜多駿

おときた駿
前参議院議員(東京都選挙区) 42歳
1983年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ社員を経て、2013年東京都議会議員に(二期)。19年日本維新の会から公認を受けた参院選東京都選挙区で初当選。21年衆院選マニフェストづくりで中心的役割を担う。
三ツ星議員・特別表彰受賞(第201~203国会)
ネットを中心とした積極的な情報発信を行い、ブログを365日更新する通称「ブロガー議員」。ステップファミリーで三児の父。
著書に「ギャル男でもわかる政治の話(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」、「東京都の闇を暴く(新潮社)

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