いやはや、AIの進化はすごい。ChatGPT(Deep Research)を使って
・河野太郎さんの一連の主張
・イギリスを中心とした諸外国の事例
をインプットした上で、基礎年金部分の税方式化を核とした年金改革案についてレポートを出力してもらいました。
けっこう読み応えがあるので、皆さまにも共有します。AIには不正確な部分もあるので留意が必要ですが、年金制度改革を議論する一助になれば。
(これが月3,000円とかで使えるのは本当にヤバい時代ですわ。。)
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背景
日本の公的年金制度は、国民年金(基礎年金)と厚生年金(報酬比例部分)からなる二階建てであり、現役世代の保険料拠出をもとに給付を賄う賦課方式です。少子高齢化の進行により現行制度の持続可能性や世代間不公平が指摘されており、将来世代に信頼される抜本改革が求められています。現行制度ではマクロ経済スライドによる給付調整が組み込まれていますが、給付水準の実質目減りへの不安は根強く、特に若年世代で「このままでは自分たちが十分な年金を受け取れないのでは」との懸念が広がっています。また非正規労働者等の増加で保険料未納・未加入者もおり、老後の無年金・低年金問題も顕在化しています。こうした課題を踏まえ、近年は年金の最低保障機能を強化しつつ財政の安定性を高める議論が活発化しています。
その一例が河野太郎氏による改革案の提起です。河野氏は著書などで、公的年金の一階部分である基礎年金の財源を保険料から消費税に切り替え、二階部分の厚生年金は現行の世代間扶養(賦課方式)から自分たちの世代で積み立てる方式への移行を主張しましたbloomberg.co.jp。この提案の狙いは、基礎年金を税財源化することで低所得者や保険料未納者でも最低保障年金を満額受給できるようにし、高齢者の生活保護利用を減らすこと、また厚生年金を積立方式に転換することで少子高齢化で拡大する世代間の所得格差を緩和することにありますbloomberg.co.jp。しかしこの案は、自民党総裁選の討論会でも他候補や専門家から強い批判を受けました。特に基礎年金の税方式化については、「財源を全て消費税に依存するなら大幅な消費税率引き上げが必要」と指摘されbloomberg.co.jp、政府の社会保障会議試算では月額7万円の最低保障年金を賄うには将来的に消費税を7~8%も追加増税する必要があるとされていますbloomberg.co.jp。また厚生年金の積立方式化についても、「数百兆円規模の年金基金が市場にさらされることになりかねず、本当に社会にとって良いのか慎重な検討が必要」といった懸念bloomberg.co.jpや、「積立不足の厚生年金を積立方式に移行するには数十兆円もの国庫投入か大幅給付削減が避けられない」との試算bloomberg.co.jpが示され、河野氏自身も「案にはこだわらない」と発言をトーンダウンさせる事態となりましたbloomberg.co.jp。
以上のように現行制度への問題意識と河野氏の提起を踏まえ、本提言では**(1)基礎年金を税方式へ移行し厚生年金を賦課方式から積立方式へ転換する案(河野氏案に近い)と、(2)基礎年金を税方式へ移行し厚生年金そのものを廃止する案(公的年金はフラットな基礎年金のみに絞り、老後の所得保障の追加部分は私的年金と生活保護に委ねる自己責任型モデル)を検討します。特に後者の「厚生年金廃止」案については、イギリスやニュージーランドなど自助努力と公的最低保障に軸足を置く年金モデル**の実例を参照し、その政策的実現可能性を論じます。またスウェーデンやオランダといった年金改革先進国の制度も適宜参照し、各モデルの特徴と日本への示唆を分析します。以下、背景を整理した上で海外事例を概観し、提案する改革案の内容とその財政影響、課題と対策について論じます。
海外事例に学ぶ先進的年金モデル
イギリス:ナショナル・ミニマムと自助努力の組合せ
制度の概要と改革の経緯: イギリスは従来から公的年金による老後保障を**「ナショナル・ミニマム」(国家が保証する最低限の生活水準)にとどめ、上乗せ部分は企業年金や個人年金など私的年金に委ねる基本哲学をとってきましたtr.mufg.jp。1980年代以降、公的年金給付の一部を私的年金で代替する施策(付加年金部分の民間への適用除外制度導入など)を進め、結果として公的年金給付費の対GDP比を6~7%程度と先進国中でも低い水準に抑えてきたのですtr.mufg.jp。1970年代には国民保険(保険料)拠出による定額の基礎年金(Basic State Pension)と、所得比例の国家第二年金**(SERPS→S2P)という二階建て公的年金を構築しました。しかしこの二階建て制度は複雑化し、将来の年金額を国民が理解しづらい問題が生じましたdl.ndl.go.jp。そこで2000年代に入り、超党派の年金委員会(Pensions Commission)が設置され抜本改革を検討。2005年の同委員会報告書では、公的年金一階部分の給付水準引き上げ・財源の税化・支給開始年齢引上げ、二階部分の定額化(フラット化)推進等が提言されnicmr.com、あわせて国民の自助努力を促進する新たな積立年金制度「国家年金貯蓄制度(NPSS)」の創設(被用者の自動加入、給与の8%拠出:労4%・使3%・国1%)も提案されましたnicmr.com。この提言に基づき、イギリス政府は2014年年金法を成立させ、公的年金を1978年以来の二階建てから定額一本立て(一層型)に再構築する改革を実行しましたdl.ndl.go.jp。2016年4月以降の新規年金受給者には新制度を適用し、国家第二年金とその適用除外(契約)制度、および配偶者の拠出記録に基づく派生年金を廃止して制度を簡素化していますdl.ndl.go.jp。新たな新国家年金(New State Pension)の水準は旧基礎年金より高く、従来の最低保障(月額保証額)が上回る水準(=課税対象ながら年金クレジット[年金所得補足給付]に頼らずとも生活できる額)に設定されましたdl.ndl.go.jp。これにより多くの国民にとって将来の公的年金受給額が明確化され、自助による老後準備を計画立てやすくなる効果が期待されていますdl.ndl.go.jp。改革のもう一つの柱として、職場を通じた私的年金への自動加入(Auto-Enrolment)制度が2012年より段階的に導入されました。これは一定収入以上の22~州定年齢未満の被用者を企業が自動的に職場年金へ加入させ、従業員が望む場合のみオプトアウト(加入拒否)できる仕組みですcommonslibrary.parliament.uk。拠出水準も段階的に引き上げられ、2019年以降は労使合計で賃金の8%(事業主3%、従業員5%〈税控除込み〉)が積み立てられていますcommonslibrary.parliament.uk。この施策により低調だった職場年金加入率は劇的に改善し、確定拠出型の企業年金加入者数は2011年の約90万人から2019年には1,060万人へと10倍に増加しましたcommonslibrary.parliament.uk。自動加入は「静かな成功」と評価され、将来の自助努力を下支えする仕組みとして定着していますcommonslibrary.parliament.uk。
制度の特徴と脱政治化の仕組み: 改革後のイギリス年金制度は、公的年金部分をフラットな税財源型給付+高齢者扶助に整理し、それを土台に個人の私的年金蓄蓄を促す「自己責任型モデル」に転換しました。公的年金給付水準は平均的収入に対し3割強と比較的低く抑えられていますが(それでも改革前よりは改善)、その分、公的年金の対GDP支出は将来も8%未満で安定すると見込まれていますtr.mufg.jptr.mufg.jp。これは若年層の負担を抑えつつ高齢者貧困を防ぐバランスを狙ったものです。最低所得層には引き続き年金クレジット(所得テスト付きの給付)が用意されますが、新国家年金の水準引上げにより将来的にこの補足給付へ依存する高齢者は減少する見込みですdl.ndl.go.jp。一方、中〜高所得層は職場年金や個人年金による自助努力で老後生活水準を維持することが政策的に期待されています。そのための環境整備として政府系の低コスト年金基金NESTの設立や手数料上限規制なども導入されました。制度の脱政治化という点では、改革プロセスで年金委員会(ターナー委員会)のような独立機関が長期的視点から提言を行い政権交代を超えて実行に移されたこと、また年金支給開始年齢の段階的引上げを法律に盛り込み将来の調整を制度化したことが挙げられます。例えば支給開始年齢は2028年までに67歳へ、さらにその後も寿命に応じて段階引上げを検討する枠組みとなっておりnensoken.or.jp、これにより給付水準引上げ(賃金連動化)とのセットで財政中立を図っていますnicmr.com(※現在は政権公約として“トリプルロック”による年金額維持が掲げられていますが、これも超党派で見直し議論が進んでいます)。総じてイギリスは、公的年金を老後所得のナショナルミニマムに限定しつつ制度全体をシンプルに再設計し、**「公的な最低保障+私的蓄蓄」**による年金モデルを確立しましたtr.mufg.jp。これは本提言の改革案2(厚生年金廃止案)の有力な参考事例となります。
スウェーデン:自動安定化機能による持続可能な社会保険モデル
制度の概要: スウェーデンは1990年代後半に抜本的年金改革を行い、賦課方式の公的年金にNonfinancial Defined Contribution(NDC:概念上の拠出建て)制度を導入しました。これは従来の賦課方式を個人ごとの仮想勘定に基づく積立方式に見立てたもので、現役期の拠出額を記録しそれに賃金変動率で利息を付けながら積み立て、退職時には平均余命に応じて年金額を算定する仕組みです。いわば賦課方式の確定拠出年金とも言える制度で、各世代の拠出と給付の対応が明確になるため世代間の不公平感を小さくし、就労インセンティブも高める効果があります。またNDC部分の給付水準は経済状況や人口動態に応じて自動調整(自動安定化メカニズム)されます。実際、2008年のリーマンショック後にNDCのバランス比率が1を下回ったため2010~2017年にかけて年金額の自動調整(カット)が発動され、制度財政の長期均衡が図られましたnensoken.or.jpnensoken.or.jp。この自動安定化装置により、政権が都度給付削減を決断しなくても財政悪化時には年金が減額調整される仕組みが確立されています。NDC改革に合わせて、全拠出のうち2.5%分は完全積立方式の個人勘定(FDC)に振り替えられ、国が運営するプレミアム年金として各加入者が自行選択したファンドで運用されますnensoken.or.jp。残る16%分の拠出はNDCとして賦課方式で高齢世代の給付に充てつつ記録されますnensoken.or.jp。このように部分的に積立を導入したのは将来の積立金収益を取り入れ財政に余裕を持たせる狙いもあります。もっともNDC導入時には積立への転換による財源不足を補うため、公的年金の積立金(AP基金)を活用して移行コストを賄っています。さらに低所得高齢者には税財源による保証年金(全国民を対象とした最低年金)が支給されますnensoken.or.jp。保証年金は居住年数要件(40年在住で満額)に基づき無年金・低年金者に給付され、財源は一般税収で100%賄われていますnensoken.or.jp。この保証年金により所得再分配機能を税方式部分に集約し、NDC部分自体は拠出と給付の対応を厳格にすることで制度の公平性・保険料の納得感を高めていますnensoken.or.jp。スウェーデンの公的年金は以上のようにNDC(賦課)+FDC(積立)+税方式最低保障という三層構造を取り、財政の自動安定化と最低保障を両立させている点が特徴です。
改革の成果と示唆: スウェーデンの年金改革は、主要政党間の合意の下で進められ、制度設計から運営まで政治的な影響を排し長期安定性を追求した成功例とされていますier.hit-u.ac.jp(改革過程では労使や受給者団体ではなく各党代表が協議)。その成果として公的年金の将来負担は明確にコントロールされ、仮に出生率低下や寿命延伸で財政悪化しても自動的に給付調整が行われる仕組みが機能していますnensoken.or.jp。一方でNDCはあくまで保険料拠出実績に応じた給付であるため、低所得で拠出の少なかった人の年金は低額になりますが、それを税財源の保証年金でカバーし高齢者貧困を防いでいますnensoken.or.jp。またスウェーデンでは職域(企業)年金も発達しており、NDCの給付上限(所得上位分)は労使の団体協約による年金で補完されていますnensoken.or.jp。日本にとって示唆的なのは、自動調整機能による年金の脱政治化と部分的積立方式の導入です。前者は日本のマクロ経済スライドにも通じる考え方ですが、スウェーデンのように財政悪化時には自動的に給付カットも発動するルールを徹底すれば、将来世代へのツケ回しを防ぎ信頼性を高められます。後者の部分積立についても、日本の厚生年金を一部積立化する際の参考になります(AP基金活用による移行コスト負担など)。ただし、スウェーデンは基礎部分を税方式ではなくあくまで社会保険方式で残した点で、次に述べるニュージーランドや提言する改革案2とはアプローチが異なります。
ニュージーランド:普遍的ベーシック年金と自発的積立の組合せ
制度の概要: ニュージーランドは公的年金としてニュージーランド・スーパーアニュエーション(NZ Super)と呼ばれる普遍的定額年金を提供しています。これは全国民(一定の居住要件を満たす65歳以上)に所得調査なしで支給されるもので、税金を財源に賄われ、拠出制や積立方式はとっていませんnensoken.or.jp。給付額は賃金水準に連動し、夫婦世帯で平均賃金の約66%となるよう法律で規定されていますnensoken.or.jp(2022年時点で夫婦各々週約427NZドル、単身で週約463NZドル〈税後〉)。このように高福祉的なベーシック年金を税方式で提供しているため、公的年金だけで一定の生活水準が維持可能であり、高齢者貧困率も低い水準に抑えられています。もっとも、公的年金が手厚い分だけ私的年金の発達は遅れていました。そのため政府は将来世代の負担増抑制と個人の上乗せ資産形成を促す目的で、2007年にキウィセーバー(KiwiSaver)と呼ばれる自発加入型の私的年金制度を導入しましたnensoken.or.jp。キウィセーバーは事実上の自動加入方式で、雇用者は全ての新規労働者をこの積立年金に加入させ(一定期間内なら本人意思で脱退可)、従業員が給与の3~10%を拠出すると雇用主も3%を拠出するマッチングが行われますnensoken.or.jp。加入者には税額控除(年最大521 NZドル)など政府のインセンティブもあり、住宅購入目的での一部引き出しも可能とする柔軟性も付与されていますnensoken.or.jp。キウィセーバー導入後、労働人口の大多数が加入し相当額の老後資産形成が進みました(2020年時点で総加入者約300万人、国内総人口の約60%強)。公的年金が普遍的かつ十分な水準で支給されるため、追加の私的年金は本人の生活水準向上のための自助的手段という位置づけです。公的年金財政については、将来の給付財源に備えるニュージーランド・スーパー基金を2001年に創設し、予算余剰を積み立てて運用する取り組みも行われています(近年一時拠出停止もありつつ、長期的に税負担を平準化する試み)。なお支給開始年齢は現在65歳ですが、高齢化を踏まえ今後67歳へ引き上げる法改正も検討されています。
制度の特徴と示唆: ニュージーランドのモデルは、公的年金を税財源によるユニバーサルなベーシックインカムに近い形で提供し、追加的な部分は完全に個人の自発的蓄財に委ねる点に特徴があります。公的年金部分は制度が極めてシンプルで政治的対立も起きにくく、経済状況に応じて給付水準を弾力調整(物価・賃金スライド)することで財政管理も可能です。実際、近年まで財政黒字を背景に公的年金は余裕をもって運営され、高齢者の貧困率(相対的貧困率)は日本(19%前後)に比べ大幅に低い7%程度となっています※。一方で私的年金はあくまで任意加入であるため、所得水準等によっては不十分な準備しかできない人も存在します。その救済として生活保護制度(高齢者も対象)が機能していますが、NZ Super自体が十分なため高齢者の生活保護受給は稀です。日本への示唆としては、思い切って公的年金を普遍的な税方式基礎年金だけに簡素化し、あとは個人の自助努力+公的扶助に委ねるという選択肢が現実に機能しうることをニュージーランドの例が示している点です。もっとも、日本で同様のモデルを採用する場合、公的年金の給付水準をどこまで設定するか(NZのようにかなり高めに設定すると財源負担も大きくなる)や、国民皆保険ならぬ「国民皆年金貯蓄」をどう達成するか(任意加入だけでなく何らかの自動加入・義務化を検討すべきか)といった論点があります。この点、イギリスの自動加入制度はニュージーランドモデルの弱点を補う仕組みといえ、日本で自己責任型モデルを採用する際には**「普遍的基礎年金+私的年金の自動加入」**という両国のハイブリッドが参考になるでしょう。
オランダ:居住ベースの普遍年金と厚生年金の集団積立
(※本稿の主旨からやや外れるため簡潔に述べます。)オランダは全国民を対象とする居住ベースの全国民年金(AOW)を一階部分として提供し、二階部分として労使が実施する職域年金(企業・産業別年金)がほぼ全就労者を網羅しています。AOWは法定保険料(賦課方式、給与の17.9%を上限所得まで)で賄われ、不足時は一般税で補填されます。満額には15~65歳の50年間の居住が必要ですが、実質的に多くの国民が満額(夫婦一人あたり月約851ユーロ)を受給しますnensoken.or.jp。特徴は、公的年金の支給開始年齢を将来の平均余命に連動させ自動調整する仕組みで、例えば1960年以降生まれは67歳以上に段階引上げと定められていますnensoken.or.jp。二階部分の職域年金は法定強制ではありませんが労使協約で実質ほぼ強制加入となっており、加入者資産は対GDP比で約225%(2021年時点)という世界最高水準の積立金を形成していますnensoken.or.jp。運営は企業や産業別の年金基金が行い、給付設計は平均賃金比例の確定給付型が主流ですが、近年は確定拠出型への移行が決まりました。職域年金の積立運用は中央銀行(DNB)等が厳格に監督し、各基金は将来負債に対し最低105%の資産を保持するなど健全性基準が法定されていますnensoken.or.jp。積立不足時は給付指数のカットや追加拠出で調整し、過度な世代間不公平が出ないようルール化されていますnensoken.or.jpnensoken.or.jp。オランダのモデルは、公的基本部分で広く最低所得を保障しつつ、上乗せは集団的な職域積立に委ねる点で、日本の厚生年金を完全積立化する場合の**極端系(公的部分は全額ベース年金、二階は全額私的積立)**と言えます。日本の企業年金・iDeCo等はカバー率・資産規模ともオランダに遠く及びませんが、将来的に職域年金の普及を図る上で有益な知見を提供しています。
以上、主要な海外モデルを概観しました。次節ではこれらの知見を踏まえ、本稿が提案する日本の年金制度改革の2つの選択肢について、その内容と利点・課題を整理します。各モデルの主要特徴を表にまとめると以下のとおりです。
▼主要国の年金モデル比較(日本の改革案との対比)
モデル(国) | 公的基礎年金の仕組み(財源) | 公的厚生年金(所得比例部分) | 私的年金の役割 | 備考・最低保障策 |
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日本(現行) | 国民年金:拠出制(保険料)+国庫補助1/2。加入は全国民(20~60歳)。 | 厚生年金:賦課方式の報酬比例DB。被用者強制加入(保険料18.3%折半)。 | 企業年金(厚生年金基金・確定拠出年金等)および個人年金(iDeCo等)は任意加入(加入率低調)。 | 低所得高齢者は生活保護で保護。マクロ経済スライドで調整。 |
改革案1(日本) | 基礎年金を税方式化:全高齢者に一律給付(所得再分配機能強化)。財源は消費税等の一般税。 | 厚生年金を積立方式化:被用者ごとの積立口座に拠出・運用し将来給付(DC方式)。現行の賦課方式から段階移行。 | (公的厚生年金が個人勘定化されるため、強制加入の私的年金化とも言える。)既存の企業・個人年金は補完的位置付け。 | 全員に最低年金を保証(無拠出でも受給可)bloomberg.co.jp。移行期に財政支援必要(現給付の財源不足を税投入等で補填)。 |
改革案2(日本) | 基礎年金を税方式化:上記と同様。 | 厚生年金を廃止:新規の報酬比例給付は行わない。現役世代の収入比例拠出は撤廃。 | 私的年金に一本化:勤労者は職場での自動加入DCや個人貯蓄で老後資金形成。事業者拠出の義務付け等によりカバー率向上。 | 公的最低保障は普遍的基礎年金+生活保護(資力不足者)。厚生年金の既得権分は経過措置給付。 |
イギリス | 新国家年金:国民保険料(準税)で賄うフラット給付。35年間の拠出で満額。改革で最低保障水準超に引上げdl.ndl.go.jp。 | なし(2016年に国家第二年金を廃止)dl.ndl.go.jp。 | 職場年金の自動加入:労使計8%拠出のDCに全労働者を加入(オプトアウト可)。加入者数は8年間で10倍に増加commonslibrary.parliament.uk。 | 低所得者は年金クレジットで補足給付dl.ndl.go.jp。支給年齢を段階引上げ(将来68歳へ)nensoken.or.jp。 |
スウェーデン | 所得比例年金(NDC):賦課方式だが拠出額に応じた記録制。財源は給与18.5%のうち16%分(労使拠出)nensoken.or.jp。不足者には税財源の保証年金で最低保障nensoken.or.jp。 | NDCが実質的に報酬比例部分(事実上一元)。上記以外に公的二階部分はなし(遺族・障害年金は別体系)nensoken.or.jp。 | プレミアム年金(FDC):拠出18.5%のうち2.5%は個人口座で運用nensoken.or.jp。さらに労使による職域年金が加入者の大半をカバー。 | 保証年金は税負担100%nensoken.or.jp。自動均衡装置で財政悪化時は給付削減nensoken.or.jp。支給開始年齢柔軟化(62歳以降選択)。 |
ニュージーランド | NZスーパー:一般税収で賄う全国民共通給付。居住要件充足で65歳から支給、所得テストなしnensoken.or.jp。給付水準は平均賃金の66%程度(夫婦合算)nensoken.or.jp。 | なし(1970年代に所得比例年金を廃止)。 | キウィセーバー:任意加入の個人積立DC(自動加入・オプトアウト可)。標準拠出率は労3%:従3%マッチングnensoken.or.jp。加入率約75%。 | 全額税負担だが高齢者扶養費は抑制(高齢者貧困率約7%と低水準)。将来財源にNZ年金基金で一部積立。 |
※各国のデータ出所:OECD統計等より作成。日本の「改革案」は筆者提案。
提案する改革案の内容と効果
以上の海外事例から、日本の年金改革にあたり考えられる選択肢として**「税方式基礎年金+積立方式厚生年金」(改革案1)と「税方式基礎年金のみ(厚生年金廃止)」**(改革案2)の2案を提示します。それぞれの狙いと制度像、利点と課題を以下に整理します。
改革案1:基礎年金の税方式化+厚生年金の積立方式化
制度の概要: 公的年金の一階部分である基礎年金を全額税負担に切り替え、現行の国民年金保険料を廃止します。財源は消費税を中心に一般財源から拠出し、高齢期に全国民が一定額の年金(最低保障年金)を受給できるようにします。二階部分の厚生年金は現行の賦課方式を改め、各被用者ごとに積立口座を設けて保険料を拠出・運用し、将来その個人口座残高に応じた年金を給付する確定拠出(DC)方式に移行します。言い換えれば、公的年金の報酬比例部分を私的年金化する形です。ただし完全移行には長い経過措置が必要なため、例えば一定年齢以下の若年層から段階的に積立方式へ移行し、移行世代の厚生年金給付は従来の賦課部分(過去の拠出に対する年金債務)と積立部分のハイブリッドになります。積立金の運用は公的機関(現行のGPIFを拡充転換)や民間金融機関を活用し、被保険者は予め設計された運用商品(ライフサイクルファンド等)の中から選択、あるいはデフォルト商品に自動的に運用されます。現行の企業年金・個人年金(iDeCo等)は任意で上乗せとして存続しますが、多くの会社員にとっては厚生年金そのものが職場を通じた強制積立年金となるイメージです。
狙いと利点: 第一に、基礎年金の税方式化によって全国民に最低保障年金を徹底させることができます。現行制度では保険料未納・未加入期間があると満額受給できず不足分を生活保護で補うケースがありますが、本改革によりそのようなギャップを解消し、高齢期の所得保障の底上げが可能ですbloomberg.co.jp。財源を社会全体で広く薄く負担(消費税等)するため、現役世代の保険料負担を軽減しつつ若年層にも「将来最低限これだけは保障される」という安心感を与えられます。第二に、厚生年金の積立方式化により、将来的に現役世代が背負う年金財政負担(高齢世代を支えるコスト)を大幅に抑制できます。各世代が自分の給付のための資金を現役期に積み立てる仕組みに転換することで、少子高齢化で現役:高齢者比率が縮小しても賦課方式のように負担が跳ね上がる心配が減ります。実際、河野氏提案の狙いも「世代間の所得移転を減らし、将来世代の負担増を緩和する」点にありましたbloomberg.co.jp。また積立方式は長期運用収益を給付財源に取り入れられるため、賦課方式に比べ給付水準の維持向上が期待できる点も利点です(運用次第では将来の給付水準が現行方式を上回る可能性もあります)。さらに制度の透明性・納得感も高まります。積立口座の残高や将来見込み額が各自に提示されることで(スウェーデンのように年次通知を実施)、自分の老後資金準備状況を把握しやすくなり、計画的な資産形成を促す効果が見込まれます。政治的にも、年金額を決める要素が運用実績など客観的指標に委ねられる分、都度の給付水準改定を巡る政争が減り「年金の脱政治化」に資する面があります。総じて改革案1は、公的年金の最低保障機能を強化しつつ、所得比例部分を各世代の自己積立に転換することで持続可能性と公平性を高める折衷案と言えます。スウェーデンのNDC+FDCやオランダ・カナダの部分積立方式など、国際的にも採用例のあるアプローチです。
課題と留意点: 最大の課題は移行コストと財源問題です。基礎年金の税方式化には巨額の安定財源が不可欠となります。前述のとおり、最低保障年金(月7万円)を全額税で賄うには将来的に消費税を7~8%追加で引き上げる試算もありますbloomberg.co.jp。実際にどの程度の税負担増になるかは給付水準や将来の高齢者数によりますが、相当規模の増税や予算措置が必要なのは確実です。もっとも改革案1では厚生年金の積立化により将来の給付費自体は大きく削減されるため、長期的には基礎年金に集中した財源手当で済む点で改革案2より負担は読みやすいとも言えます(後述のように改革案2は厚生年金給付を無くす代わりに基礎年金や生活保護の給付水準次第で財政負担が増減します)。どのみち消費税だけに頼るのではなく、複数の財源組合せ(例えば消費税+所得税や資産課税強化、あるいは年金目的国債の発行と将来の一般財源充当)も検討すべきでしょう。次に積立方式への転換によるダブル負担の問題があります。移行期の現役世代は、自らの積立口座への拠出をしながら同時に現存する高齢者への年金給付も支えねばなりません。保険料を全て積立に振り向けてしまうと現在受給している高齢者への給付原資が不足します。このため移行初期には国庫から相当の繰入れ(いわば“つなぎ融資”)が必要となり、その財源確保が課題ですbloomberg.co.jp。スウェーデンは従来積み立てていた年金積立金を充当してNDC導入の穴埋めをしましたが、日本でもGPIFの積立金(積立金残高約200兆円)や年金特別会計の活用が考えられます。ただGPIF資産はすでに将来のマクロスライド調整期間の支えに充てる前提であり、使いすぎれば後年の基礎年金財政に影響します。現実的には、世代ごとに段階移行するスライド移行(例:一定年齢以下は保険料の一部を積立口座拠出、それ以上は従来通り賦課拠出)や、積立移行初期は保険料の一部を賦課分に充てつつ徐々に積立比率を上げていく方法などが考えられます。こうしたハイブリッド期間を設け負担の山をならす工夫が不可欠です。
さらに、積立方式では巨額の資金が金融市場に投下されるため運用リスク管理も重大です。仮に日本の厚生年金保険料18%(労使)相当が全額積立運用となれば、新たに数百兆円規模の年金マネーが市場に投入されることになり、「その資金を市場変動にさらすことの是非」が問われますbloomberg.co.jp。運用利回りが想定を下回れば将来給付が目減りするリスクも個々人が負うことになります。これに対しては、運用の分散・長期化や元本確保型商品の提供、極端な市場変動時の政府によるセーフティネット検討(最低利回り保証や公的年金給付との統合的調整)などリスク緩和策が必要でしょう。また運用機関のガバナンス・手数料管理も重要です。英国ではNESTという公的な低コスト運用機関を設立し、加入者が適切な運用サービスを受けられるようにしました。日本でもGPIF等既存機関を活用しつつ、加入者保護の観点から運用管理の透明性確保と低コスト運用(信託報酬の上限制など)を図るべきです。なお積立方式への移行によって仮に将来世代の給付水準が向上した場合、その恩恵と移行期コストの負担との世代間配分の公平にも留意が必要です。移行期に負担増となる世代(現在の若年層)が報われる設計になっているか、検証と説明責任が求められます。
改革案2:基礎年金の税方式化+厚生年金の廃止(自己責任モデル)
制度の概要: 公的年金は基礎年金(税方式)一本に限定し、現行の厚生年金制度は新規給付を行わず段階的に廃止します。全国民は一定年齢になれば一律の基礎年金(最低保障年金)を受け取りますが、収入比例の上乗せ給付はありません。その代わり、各人の老後所得の充実部分は私的年金(企業年金・個人年金)に完全に委ねる形とします。具体的には、被用者については雇用主に対し企業年金への加入(自動加入の義務化)を法律で課し、個人についても若年期から自助努力で積立投資(iDeCoやNISA等)をすることを強く促します。企業年金のない中小企業労働者や自営業者には、国が主導する共通の積立年金制度(日本版NESTや国民年金基金の拡充など)を整備し、自動的に加入させることでカバーします。こうした枠組みにより、現役世代は強制的または半強制的に私的年金を積み立てることになり、将来の老後資金は自己責任で準備するのが原則となります。一方で公的年金としての基礎年金は存続しますから、全く貯蓄ができなかった場合でも一定の給付は受け取れます。さらにそれでも不足する高齢者については最終的なセーフティネットとして生活保護(高齢者加算等含む)で支える体制です。現行の厚生年金の権利については、制度廃止以前に拠出した記録に応じて年金を支給する必要がありますが、新規の拠出は受けないため、例えば賦課方式を維持しつつ被保険者数が減っていく「縮小均衡システム」として段階的に払込を終える形になります(財源不足時は一般財源で補填)。新規加入者は存在しないため、厚生年金は数十年かけて有機的に消滅していくことになります。
狙いと利点: このモデルの狙いは明確で、公的年金制度の簡素化と財政中立化です。基礎年金のみの一階建てにすることで年金制度は極めて分かりやすくなり、行政コストも削減されます。全ての国民が「税負担により最低限の年金をもらう」という一元的な仕組みになるため、現行のような被用者と自営業者の区分もなくなり(基礎年金に統合)、年金未加入者も発生しません。無年金・低年金問題の抜本解消にもつながります。財政面では、将来的に公的年金給付は基礎年金部分に限定されるため、長期推計上の年金財政は非常に安定します。厚生年金給付(報酬比例部分)を廃止することで、公的年金の対GDP支出は現行計画より大幅に圧縮される見込みです。実際、同様のフラット型制度である英国・ニュージーランドでは、公的年金給付の対GDP比は約5~7%程度に収まっています(日本は将来さらに上昇し得る9~10%超)。政府の役割は高齢者最低所得の保証に徹し、それ以上は各個人・家庭・コミュニティが担う自己責任原則を明確にすることで、社会全体としての年金財政リスクを縮小できます。政治的にも、最低保障部分のみを扱えばよいため論点が限定され、年金政策がシンプルになります。労働市場への影響という観点では、現行の賃金比例保険料は実質的に働く人への税(人件費コスト)となっていますが、これを廃止することで労働コストが下がり、雇用促進や賃金上昇につながる可能性があります(もっとも同時に消費税等が上がればトレードオフですが)。また積立による資産形成が国民的に進むことで、株式市場の活性化や個人の金融リテラシー向上、副次的には将来的な相続財産の増加による資産循環など、経済面でプラス効果も考えられます。何より、公的年金への過度な期待を改め**「公は最低限を保障、あとは自助努力で備える」という社会的合意が得られれば、若年世代も将来世代負担への不安から解放され、各自のライフプランに応じた老後準備に取り組みやすくなるでしょう。英国のように公的年金を一本化して透明性を高めた上で**、自動加入や税優遇策で私的年金への参加を促す枠組みは、政策的にも十分機能し得ることが示されていますcommonslibrary.parliament.ukcommonslibrary.parliament.uk。このモデルは**「ベバリッジ型」(一律給付)への大胆な転換**であり、現行の社会保険方式を抜本的に見直すものですが、高齢化が極度に進展した日本において一考に値するオプションです。
課題と留意点: 他方、このモデルにはいくつか重大な課題があります。第一に自己責任に伴う格差拡大リスクです。公的年金が定額のみになると、中所得以上の層では現役時代との所得代替率が大きく低下します。その不足分を各自が私的年金で補うわけですが、十分な拠出ができる人とできない人、運用が上手くいく場合といかない場合で、老後所得に大きな格差が生じる可能性があります。結果的に富裕層は豊かな老後を送れる一方、計画的な準備ができなかった層は基礎年金+生活保護頼みのギリギリの生活となり、高齢期の経済格差が現在以上に広がる懸念があります。これは「自己責任だから仕方ない」という考え方もありますが、社会的連帯の観点から許容しがたい格差が生まれないよう、私的年金への強制加入度合いや生活保護の水準設定などでコントロールする必要があります。第二に自発的加入の限界への対策です。ニュージーランドではKiwiSaverがあるにもかかわらず加入率は6~7割に留まっています。日本でも単に任意加入を促すだけでは不十分であり、事実上の強制加入に近い仕組みが必要でしょう。英国のような自動加入+オプトアウト方式は一つの解決策で、心理的ハードルを下げ高加入率を実現しましたcommonslibrary.parliament.uk。日本でも、全企業に対し従業員を企業年金(もしくはiDeCoなど個人型年金)に自動加入させる義務を課し、一定期間内に本人が明示的に脱退を希望しない限り積立が継続される仕組みを導入すべきです。また自営業者やフリーランスについても、業界団体や国民年金基金を通じた集団加入スキームを用意し、実質的に全就労者が何らかの私的年金に加入する体制を目指す必要があります。第三に基礎年金の水準設定です。公的年金が基礎のみになる以上、その水準如何で高齢者の貧困率や必要財源が大きく変わります。ニュージーランドのように平均賃金の7割近い高水準の基礎年金を出す場合、当然ながら財源負担も重くなります。逆に日本の現行国民年金並み(月額6.5万円程度)では最低生活を維持できない高齢者が多数出る恐れがあります。最低保障としてふさわしい基礎年金額を設定し、それに見合う財源を確保することが本モデルの成否を分けます。財源については改革案1と同様、消費税を中心に広く負担を求めることになりますが、厚生年金廃止により将来的には基礎年金分の財源だけで済むため、長期的な税負担水準は河野氏試算(消費税+7~8%)より抑えられる可能性もあります。仮に財源不足が懸念される場合は、給付開始年齢のさらなる引上げ(例えば68~70歳)や給付額の見直しも選択肢となります。第四に移行期の制度運営です。厚生年金を直ちに廃止すると言っても、既に保険料を拠出してきた現役世代には将来給付の権利があります。これを無視すれば契約不履行となるため、現役世代には原則としてこれまでの加入期間に応じた報酬比例年金を従前通り給付しなければなりません。新規に厚生年金の加入者・拠出が無くなると現給付の財源が不足しますから、こちらも相当額の税投入が必要になります(改革案1の場合と違い、新規拠出自体がゼロになるため、むしろ一般財源負担は重くなり得ます)。このため一案としては、厚生年金保険料を直ちにゼロにはせず一定期間は名目上徴収を続け、それを全額現給付に充当して将来債務を減らしつつ段階的に制度を縮小終了させる方法が考えられます。極端に言えば「現役世代全員が最後の保険料拠出世代となり、自分たちの給付は放棄する代わりに自分たちの拠出は親世代に充てる」という社会契約を結ぶ形ですが、これは世代内で完結する分だけ世代間不公平は小さいものの、現役世代の理解を得るハードルが高いでしょう。結局のところ、改革案2を実行するには政治的にも国民的にも相当の覚悟と合意形成が必要です。老後の生活はまず自分で備えるという自己責任哲学への国民的コンセンサス、そして公的年金に頼りきれないことへの国民の理解が不可欠となります。加えて、私的年金市場の整備・監督(金融商品の信頼性確保、手数料規制、破綻時の救済ルールなど)、高齢期に十分な資産形成ができなかった人へのケア(生活保護の周知徹底やスティグマ緩和、住宅・医療といった他分野での包括支援)といった政策的フォローも求められます。
財政影響の比較試算と持続可能性への影響
提案する2つの改革案はいずれも長期的に公的年金財政の大幅なスリム化・安定化をもたらしますが、移行期の財政負担や必要な税財源規模は大きく異なります。ここでは両案の財政的影響を概算し、その持続可能性への寄与を評価します。
まず基礎年金の税方式化に伴う財源需要ですが、政府の社会保障会議試算によれば最低保障年金(月7万円)を全額税負担にするには消費税率で7~8%相当の追加財源が必要とされていますbloomberg.co.jp。仮に基礎年金給付総額を年約30兆円規模とすると、消費税1%あたり約2.8兆円の税収(現在)で計算して7~8%増が必要という試算は妥当なオーダーです。この増税幅は現行消費税10%に上乗せすると計17~18%に達し、家計や経済への影響も無視できませんbloomberg.co.jp。改革案1・2とも基礎年金税方式化を採る以上、この規模感の財源手当が共通の課題となります。ただし将来的に厚生年金給付が縮小・廃止されていけば、その分国庫補助や保険料負担が減るため、社会全体としては財源付け替えの側面もあります。改革案1では、積立方式に移行後は賦課方式厚生年金給付がほぼ消滅するため、基礎年金に専念した財源で長期均衡が取れるようになります(ただし積立金の運用損失が出た場合に公的救済が必要となれば別途財政リスクがあります)。改革案2では、厚生年金給付が無くなる一方、最低保障として基礎年金をどこまで手厚くするかで財政負担が変動します。例えば英国程度の水準(所得代替率25~30%)に抑えれば消費税増は5%程度で済む可能性がありますが、ニュージーランド並みに厚くするなら10%以上の増税も視野に入ります。したがって改革案2の財政負担は設計次第で振れ幅があります。
移行期の追加的国庫負担は、改革案1では積立移行コストとして顕在化し、改革案2では既得権給付の補填コストとして発生します。積立移行コストとは、現役世代の保険料を積立に振り向けた分だけ生じる現行給付財源の不足額です。仮に厚生年金保険料収入(年約30兆円超)を一部でも積立に回せば、その分を税で補わないと現在の年金給付が支えられません。極端な試算として、厚生年金保険料の半分(労使合計9%相当)を積立に回した場合、毎年15兆円規模を国庫で負担する必要が生じます。これを例えば20年かけて国債で手当てすれば累積300兆円規模となり、前述の専門家指摘通り「数十兆円~数百兆円」の国庫投入が必要との試算に合致しますbloomberg.co.jp。現実にはそこまで急激に積立化しないにせよ、何らかの形でこの移行コストを捻出する財政計画が必要です。一方、改革案2の既得権補填コストは、賦課方式厚生年金を維持する期間中に毎年生じます。新規加入者ゼロで被保険者数が減っていく中でも既存受給者への給付は続くため、賦課方式を維持すれば保険料収入だけでは足りず国庫補填が増大します。いずれの場合も、移行期の国債発行や他歳出削減による対応が避けられず、財政ルールとの調整や世代間負担のあり方について慎重な議論が必要です。とはいえ、これらは移行期の一時的コストであり、長期的には両改革案とも公的年金の財政は安定軌道に乗ります。改革案1では積立方式で将来世代の公的負担は基礎年金部分に限定されますし、改革案2では公的年金給付自体が基礎年金のみなので給付負担が明確です。いずれも年金財政の予見可能性が高まり、将来世代にツケを回さない仕組みとなる点は大きなメリットです。これはスウェーデンの自動安定化や英国の年金委員会方式とも通じる「持続可能な年金」の要諦であり、本質的に重要なポイントと言えます。
制度改革を進める上での課題と対策
最後に、以上の年金改革案を政策立案・実行するにあたっての横断的課題と、その対策・実施方策について述べます。
1. 国民的合意形成と制度の脱政治化: 年金制度の抜本改革は国民生活に直結するため、社会的合意なくして断行は困難です。特に改革案2のように自己責任を大きく打ち出すモデルは、「公的年金はどこまで面倒を見るべきか」という価値観の転換を伴います。政府は国民に対し現行制度の問題点や将来見通しをデータで丁寧に示し、改革の必要性と選択肢をわかりやすく説明する努力が不可欠です。その上で、超党派の年金改革委員会(英国のターナー委員会のような)を設置し、中立的立場の専門家や各党代表者が参加する場で議論を深めることが有効でしょう。利害関係者(労使や高齢者団体等)は必要に応じヒアリングを行いつつも、最終的な制度設計は将来世代を代表する視点を持ったメンバーで決定することが望ましいと考えますier.hit-u.ac.jp。こうしたプロセスを経て得られた改革方針については、できれば与野党間で合意し長期にわたり実行する枠組みを構築します。年金改革を政権の度に翻すことは国民の不信感を招くため、合意事項は年金基本法(仮称)として成文化し、将来の見直し手続きも予め規定しておくなど制度を政治から一定距離を置いて運営できるようにします。例えば支給開始年齢の引上げルールを法律に盛り込み、経済指標や平均余命に基づき自動調整すると定めておけば、都度の政治判断なしに持続可能性を確保できますnensoken.or.jp。スウェーデンやオランダではこのように法律で調整ルールを設定する手法がとられています。日本でもマクロ経済スライドがありますが、将来はさらに支給開始年齢の連動引上げや基礎年金国庫負担率の機動的見直し(税収状況に応じた調整)など、制度を自動安定化させる仕組みを強化すべきでしょう。年金制度の基本的役割(最低保障なのか所得維持なのか)について国民的な理解を得ること、そして将来にわたり政治的思惑で大きく方針転換されない安定した制度枠組みを築くことが、改革成功の前提条件となります。
2. 私的年金制度の整備と信頼醸成: 改革案1・2いずれにおいても、私的年金(企業・個人)の役割が格段に増すため、その制度的整備と普及が死活的に重要です。まず企業年金については、加入拡大とポータビリティ向上が課題です。中小企業従業員や非正規社員にも確定拠出年金(企業型DC)への自動加入を義務づける、企業年金のない企業には中小企業向け共通基金(現在のiDeCo+や中小企業向けDC制度の拡充版など)への加入を促す、といった措置が必要です。加えて転職・離職時にも企業年金資産が個人口座に集約・持ち運べるよう、企業年金と個人型年金(iDeCo等)の制度接続を柔軟にしていくことも大切です。個人年金については、現行のiDeCoや積立NISAのさらなる拡充(加入対象拡大や拠出限度額引上げ)を図り、若年層から老後資金づくりを始めるインセンティブを強めます。同時に、金融教育・年金教育の充実も不可欠です。学校教育や職場研修でライフプランニングや資産形成について教える機会を設け、国民が主体的に老後を設計できるよう支援します。さらに、私的年金への信頼を高めるため適切な規制と監督を行います。具体的には、年金商品に係る情報開示の徹底、過度な手数料の禁止、運営機関の財務健全性確保のための監督強化等です。私的年金は公的年金に比べ元本保証がなく不安という声もありますが、英国NESTのように政府が低リスク運用の器を用意すれば安心感が増しますし、規制当局が健全な市場を維持すれば過度な心配は不要となります。国民の大切な老後資金を預かるという意識のもと、金融庁等が中心となって私的年金市場の信頼性向上に努めることが重要です。
3. 移行期の経過措置と特例対応: 大きな制度転換には必ず経過措置が伴います。改革案1の場合、積立口座への拠出開始世代や移行スケジュールを明確にし、移行世代(例:○年生まれ~○年生まれ)の年金計算方法(従来賦課分+積立分の按分計算など)をわかりやすく周知する必要があります。改革案2の場合、厚生年金廃止による経過措置として、一定年齢以上の現役世代には従来通り報酬比例年金を保障する一方、それ未満の世代には基礎年金のみ(+私的年金)となることを事前に通知し、世代間の不公平感を和らげる工夫が求められます。制度移行期にはどうしても過渡的な不公平や混乱が生じやすいため、可能な限りシンプルで機械的なルールを設定し、国民の理解を得るよう努めます。また移行に際し特例措置も検討すべきです。例えば基礎年金税方式化により現役世代の手取り収入が増える(保険料負担減)ことを考慮し、低所得層にはその分を老後資金に回せるよう一時金支給や特別減税を行う、といった再分配策も考えられます。逆に高所得層に対しては基礎年金部分の課税強化(現行でも一定以上は課税済み)や支給縮小も検討材料です。改革案2では、公的年金がフラットになる代わりに企業年金拠出が実質義務化されれば企業負担増となるため、中小企業には一定の補助金や税額控除を用意し円滑な導入を促すことも必要でしょう。このように移行期の痛みを緩和する政策パッケージを併せて講じることで、改革の実現可能性を高めていきます。
4. 社会保障全体との整合性: 年金制度改革は他の社会保障制度や労働政策とも密接に関連します。基礎年金の税方式化は医療・介護など他分野の財源配分にも影響を与えるため、社会保障給付全体の中での年金給付水準の位置づけを再定義する必要があります。例えば「基礎年金+生活保護+医療介護」で高齢期の最低保障を包括的に設計し直し、その上で私的年金や就労(高齢者の就労促進策とも連動)によって中間層以上の生活水準を維持する、といった全体像を示すことが求められます。また税方式化により年金と生活保護の境界が曖昧になる部分も整理が必要です(最低保障年金と生活保護の水準差・資格要件の整理など)。さらに積立方式の導入は金融市場への資金流入を大きく増やすため、国内資本市場の発展戦略や投資先(例えばESG投資や国債消化など)との整合も考慮し、経済政策との一体性を図ります。年金改革が年金領域だけで閉じず、高齢者の生活全般を支える包括的政策パッケージ(住まい、医療、介護、就労などの政策とセット)として提示されれば、国民の理解と支持も得やすくなるでしょう。
おわりに
日本の年金制度は今、大きな岐路に立っています。河野太郎氏の提起したような税方式化・積立方式化の議論は、一見過激にも思えますが、英国やスウェーデン、ニュージーランドなど諸外国の先行事例を検証すると、それぞれ合理性と課題が浮かび上がります。本レポートでは2つの改革シナリオを提示しましたが、いずれも現行制度の延長線上にはない大胆な転換を含むものです。もちろん実現には克服すべきハードルが多く存在します。しかし、少子高齢化の進行速度を考えれば、もはや現行の枠組みの微調整だけでは将来への不安を拭えない段階に来ています。年金は世代と世代をつなぐ社会契約です。だからこそ政治的リーダーシップと国民的議論によって、新たな契約内容を早期に定め直す必要があります。本稿で検討した**「税方式による最低保障充実」と「公的/私的役割分担の見直し」**という方向性は、日本の年金制度を持続可能で公正なものに再設計する有力な選択肢です。財政規律と高齢者の安心を両立させた制度構築に向けて、海外の知見も活用しながらさらなる議論が深まることを期待します。そして将来世代に胸を張って引き継げる年金制度を築くために、今こそ大胆な一歩を踏み出す時と言えるでしょう。
※上記はAIによるレポートであり、内容には不正確な点がある可能性もあります。ご留意ください。
おときた駿
参議院議員(東京都選挙区) 41歳
1983年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ社員を経て、2013年東京都議会議員に(二期)。19年日本維新の会から公認を受けた参院選東京都選挙区で初当選。21年衆院選マニフェストづくりで中心的役割を担う。
三ツ星議員・特別表彰受賞(第201~203国会)
ネットを中心とした積極的な情報発信を行い、ブログを365日更新する通称「ブロガー議員」。ステップファミリーで三児の父。
著書に「ギャル男でもわかる政治の話(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」、「東京都の闇を暴く(新潮社)」
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