介護や子育てなど、あらゆる福祉・社会保障システムは
つくづく制度設計(インセンティブ設定)がすべてだと痛感します。
インセンティブ設定とは、
簡単に言えば主に補助金の出し方のことで、
「要介護認定3なら一人当たりいくら、4ならいくら」
「送迎サービスをすると補助金を加算」
「ショートステイサービスを実施すると一回あたりいくら」
という風に制度設計をして、事業者さんたちの
サービスが向上していくように政策誘導をしていくわけですね。
ところが、このインセンティブ設計がマイナスの方向に働く、
あるいは時代について行けないため、負の効果をもたらすことがあります。
そのひとつの例が、障害児福祉における
「高度医療必要児(仮)」
の存在です。
■
医学の進歩がもたらしたのは、長寿高齢者の存在だけではありません。
小児医療やNICUの功績により、小さな命がたくさん救われるようになりました。
その結果、それまでは少なかった
「医療的ケアを必要とする障害児」
が多く存在するようになりました。かつては幼くして亡くなったり、
あるいはその短い生涯を、歩くことや動くこともできなかった命です。
こうした障害児たちが、医療の進歩によって存命し、
歩いたり動いたりしながら、懸命にその人生を全うできることになりました。
もちろんそれ自体は寿ぐべきことではあります。
が、こうした医療的ケアを必要する障害児を、なんらかの施設が預かるとすれば、
専門的な技術はもちろん、ほぼマンツーマンで彼らを見守る人員が必要になります。
さて、行政には「重症心身障害児」というカテゴリがあります。
文字通り、心身ともに(身体と知能の両方に)障害を持つ重度の障害児を指し、
このカテゴリに入る障害児を受け入れる施設には、加算処置が行われます。
では、何をもって「重症心身障害児」と規定しているのでしょうか?
自治体によって異なりますが、東京都が用いているのは『大島分類』と呼ばれる、
もっとも一般的な基準です。
知能がIQ35以下かつ、立ち上がれない(ほぼ動けない)障害児を
「重症心身障害」と判定するわけですね。
こうした障害児を預かる施設は、人員面を中心に負担が非常に大きくなるため、
その受入れ人数に比例して加算措置、インセンティブがしっかりと担保されています。
以上を前提として、話は医療児に戻ります。
かつては医療的ケアを必要とする障害児はほとんど存在しないか、
あるいは歩けない・動けない状態が一般的であったため、
この「重症心身障害」のカテゴリでほぼ対応することができました。
ところが、医療の進化によって、
「医療的ケアを必要としながらも、重症心身障害に入らない(歩ける)障害児」
が生まれてきました(以下「高度医療必要児」とします)。
施設側としては、彼らを預かることになれば専門知識と余剰人材が必要になる上、
受け入れたとしても何ら加算措置・インセンティブがもらえないわけです。
…すると、どうなるか。
高度医療必要児の受け入れ先は、必然的に少なくなります。
別に施設を運営する事業者たちが、血も涙もないわけではありません。
ただ、「インセンティブ」がそうなっていれば、事業はそのように誘導されていくのです。
高度医療必要児より、重症心身障害児を預かって補助金をもらい、人員を増やす。
高度医療必要児より、普通障害児を3人預かって補助金を多く獲得し、施設を充実させる。
別に金儲けをしようと思っているわけでなくとも、
インセンティブ制度をフルに活用して、余力でサービスを向上しようとすれば、
必然的に上記のような選択が「合理的」になってしまうわけですね。
■
このような高度医療必要児を持つ親の現状については、
自らも障害児保育施設を手掛ける、お馴染みの駒崎弘樹氏の記事に詳しいです。
制度の狭間に落ちる重症心身障害児
http://www.komazaki.net/activity/2013/08/004366.html
制度のはざまに落ちる利用者・制度を悪用する事業者…
こうしたインセンティブ設計には、時代と状況変化に合わせた、
不断かつ迅速な見直しが欠かせません。
ちなみに東京都の担当局にヒアリングしたところ、
「歩く重症心身障害児というのは語彙矛盾であり、存在しない(要約)」
という至極真っ当な回答が返ってきました(苦笑)。
「若い老人」みたいなものですね。
いや、これは論理的に考えればその通りなんですよ。
行政は、なんらかの物差しを規定しなければなりませんしね。
重症心身障害児の範囲を広げるのが難しいなら、
高度医療必要児という新たなカテゴリを設ける必要があるのですが、
「医療ケアとなるとまた別の部署」
という、これまた行政の縦割り問題が炸裂したので、
引き続き明日以降も調査・ヒアリングを進めてみたいと思います。
同じ障害児の問題なのに、こういう分断も課題なんですよね…。
子育てや介護、障害者政策のインセンティブ設計について、
正解はなくても、常に現時点の最適解を追い求めていきたいものです。
それでは、また明日。
おときた駿
参議院議員(東京都選挙区) 41歳
1983年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ社員を経て、2013年東京都議会議員に(二期)。19年日本維新の会から公認を受けた参院選東京都選挙区で初当選。21年衆院選マニフェストづくりで中心的役割を担う。
三ツ星議員・特別表彰受賞(第201~203国会)
ネットを中心とした積極的な情報発信を行い、ブログを365日更新する通称「ブロガー議員」。ステップファミリーで三児の父。
著書に「ギャル男でもわかる政治の話(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」、「東京都の闇を暴く(新潮社)」
twitter @otokita
Facebook おときた駿
Instagram @otokitashun
買って応援!
下記リンクから飛んで、Amazonにてお買い物をしてみてください。
発生した収入は、政治活動の充実のために使用させていただきます。
Amazonでお買い物
Tags: 障害者政策