東京から、あたらしくしよう

#6 松森果林さま :: おときた駿のあのひとに逢いたい

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NHK「ワンポイント手話」の司会や内閣府の障害者政策委員会の委員を務める松森果林さん。中途失聴者の立場から社会のユニバーサルデザイン化を訴える彼女は、どんなことを政治に期待しているのでしょうか?

松森果林

松森果林
(まつもり かりん)

1975年、東京都生まれ。ユニバーサルデザインアドバイザー。
小学4年で右耳の聴力を、高校で左耳の聴力を失った中途失聴者。筑波技術短期大学卒、オリエンタルランド勤務を経てフリーランスに。大学在学中に東京ディズニーランドのバリアフリー研究をしたことがきっかけで「ユニバーサルデザイン」と出会う。『誰でも手話リンガル』『音のない世界と音のある世界をつなぐ―ユニバーサルデザインで世界をかえたい!』など著書多数。

※松森さんは、中途失聴者なので、耳は聴こえないものの明瞭に話をすることができ、相手の言っていることもある程度、読話で把握することができます。この日は、松森さんの専属手話通訳士の方に同席いただきました。(プライバシー保護のため顔にぼかしを入れています)

中途失聴者だから見える世界がある

音喜多(以下、音):きょうは、よろしくお願いします。

松森(以下、松):よろしくお願いします。

:著書の「音のない世界と音のある世界をつなぐ―ユニバーサルデザインで世界をかえたい!」を読ませていただきました。一言では言い表せませんが、非常に壮絶な経験をされてきたのだなと思いました。この記事の読者の方にも知っていただきたいので、少しだけ耳が聴こえなくなったときのことを教えていただけませんか?

:はい。まず、小4のときに右耳が聴こえなくなりました。徐々に音が消えていく恐怖や不安は想像しがたいものです。投薬治療をしていましたが改善が見込めず、聞こえないことでいじめられることが増え、「聞こえないのは悪いことなんだ」と思うようになりました。それ以来、相手に聴こえないことを悟られないよう、“聴こえるフリ”をしていました。相手が笑っていれば、よくわからなくても自分も笑う、授業で指されたら「わかりません」と答える、そんな曖昧な日々を送っていました。いまなら聴こえないことを伝えて共に解決方法を探ることができますが、当時は「できるだけみんなと同じようにしていたい」という気持ちが強く、結局、中学卒業時まで聴こえないことを隠したままの生活が続きました。

:高校受験の時はどうされたんですか?

:はい。英語のリスニングは、全然聴こえないので勘で答えました。でも、面接はさすがに無理があって、受験番号と名前と家族構成まで答えた後の質問が全く聞こえなくなってしまいました。その日の帰りに絶望的な気分で両親に「わらかないんじゃなくて、聴こえないんだ」と打ち明けました。聞こえないことを実感した高校受験でした。幸いにも高校に合格することができのは、よかったと思います。

:高校でも、健常者の生徒と一緒に授業を受けていたと。

:そうです。全身を耳にして頑張っていましたが、高校二年の終わりに、残っていた聴力がすべて消えました。卒業後の進路を考えていたときでしたし、希望していた専門学校2校に「耳が聴こえなくても大丈夫か?」という主旨の手紙を送ったところ、「難しい」という回答がきたんです。そのときに、「日本という国は障がい者になっただけで何をするにも大変な国なんだ」と心底自分の置かれた状況を嘆いた記憶があります。泣きましたし自殺未遂までしました。きっと、この先、進学もできない、就職もできない、結婚もできない、人生でできることなど何もないと。絶望しました。

:そんなとき、気持ちを救ってくれたのは、お父さんだったんですよね?

:そうなんです。泣いてばかりいる私に、父が一言、紙に書いてくれました。「お前の涙を見ているといっそのことお父さんも聞こえなくなれば、と思う。できることなら、変わってあげたい。でも俺が同じ立場だったら乗り越えるぞ」と。自分と同じ立場になって励ましてくれた父の言葉に、私は少しずつ現実と向き合うことができました。それに、完全に聞こえなくなったことで“聴こえるフリ”をもうしなくてもいいんだという安堵感も少しだけあったかもしれません。大学進学という目標も見つかり無事に進学することができました。

:そして、大学で「ユニバーサルデザイン」と出会ったと。

:大学時代の恩師が東京ディズニーランド(以下、TDL)をテーマに、「ユニバーサルデザイン」について考えるきっかけをくれました。私たちは、「聞こえなくてもTDLを10倍楽しむ方法」を提案すべく、何度もTDLを訪れフィールドワークを行いました。最終的に、運営会社のオリエンタルランドに改善提案をしたことは、とても大きな経験になりました。

:その提案を受けて、東京ディズニーリゾート全体が変わったそうですね。

:決して自慢するわけではありませんが、私たちの提案を受けて、いくつかのことが変わりました。例えば、手話ができるキャストを育成し、手話のピンバッジを作ったり、筆談への対応や、アトラクションの音声を字幕表示するシステムなどが配備されたりしました。これはほんの一部ですが、すべて自然に違和感なく取り入れられている点に、さすがディズニーマジックだなと思いました。

:その柔軟さとホスピタリティの高さはさすがディズニーですね。

:そのときの経験がきっかけとなり、不満ではなく提案をすれば社会は変わると分かりました。いまでは、「私の強みは聴こえないこと」とはっきり言えるようになりました。きっと、社会には中途失聴者だから見える世界もたくさんあると思うんですね。だからこそ私は、「聴こえる世界も聴こえない世界も知っている」という自分の強みを生かし、「ユニバーサルデザイン」の普及に生涯をかけていきたいなと思っています。

:大変勉強になります。ぜひ、私も協力させてください!

ユニバーサルデザインとは、改善を続ける意思

:ユニバーサルデザインを考えるうえで大変なことは何ですか?

:ユニバーサルデザインとはできる限り多くの人にとっての利用しやすさを考えることですが、一口に「障がい者」と言っても、目が見えない人、足が不自由な人、私のように耳が聴こえない人など、多様です。障害によってニーズも異なるので、そうすると、障がい者間で利害がぶつかってしまうことも多々あるんですね。それに対してどう歩み寄り、互いに納得できて、結果的に多くの人にとって有効になるかというプロセスを丁寧にこなすことが大変です。

:なるほど。

:例えば、羽田空港国際線旅客ターミナルのユニバーサルデザインに関わりましたが、視覚障がい者の方は点字ブロックが必要な一方で、車いす使用者にとっては、段差となったり、スーツケースでの移動の邪魔になるという意見もあります。もちろん、どちらも大事なので、優先度の上下はありません。こういった場合、それ以外の評価軸を見出すことが重要になります。空港の場合は、「どちらが危険なのか」を判断基準にし、危険を回避できる方法を優先させました。そのうえで「有効性」を考え結論をだしてきました。

:当事者同士の意見が違うとき。現場の声を聞けと言われますが、まさにその好例ですね。

:そうですね。私は「ユニバーサルデザイン」には、「100%完璧」という状態はないと考えています。「ユニバーサルデザイン」とは、常に改革し続けることやその意思を持ち、積み重ね、歩み寄ることが大事だと思います。

:なるほど。物を作って終わりではないということですね。

:そうですよね。誰もが快適に暮らせるための社会を作るために、少しずつ意見を取り上げて進化していく、スパイラルアップ(好循環)が大切なんだと思います。

:日本の福祉が世界のスタンダードを目指すのであれば、時代に合わせて更新を続けていくことは必須だと思います。ある障がい者の方が、「変わらないことを望むのは健常者、変わることを望むのは障がい者」とおっしゃっていましたが、確かにその通りで、現在の福祉制度は、物を作ったからこれで安心、ルールを整備したからもう大丈夫というように、環境が変わらないことを前提に考えられていますが、人も時代も移りゆくのであれば、本来は常に進化・改善をし続けるべきですよね。

:そうなんです。そして、そのときには様々な当事者や異なる立場の人の意見を聞き、まとめる人が必要なんです。

:本当はそれって政治家がすべき仕事なんですけどね……。正直、いまはまだ至らないと言わざるをえないですね。何よりも、政治家のユニバーサルデザイン化が必要なのかもしれないな……。

:「バリアフリー」とはバリアをなくすことで、「ユニバーサルデザイン」とはそもそもバリアを作らない考え方です。ハードもハートも世の中が自然に「ユニバーサルデザイン」を意識して構成されていけば、きっと、誰かが我慢をするツギハギのバリアフリーじゃなくて、みんながちゃんと快適に暮らせる社会になると思うんですね。

:私も日頃から、「障がい者に優しい街は、高齢者にも優しい街であり、すなわちそれは誰にでも優しい街」という考えのもと政策を検討しているんですが、今後は、松森さんのおっしゃる「進化し続けるユニバーサルデザイン」の考え方も取り入れたいと思います。また、松森さんは、内閣府の障害者政策委員会(※1)の委員をされていますが、どんな点が一番大変ですか?

:私はユニバーサルデザインを専門にしていること、聴覚障害者であること、障害のある女性であること、母親であることなど、様々な立場から関わっています。大変なのは、複雑で難解な法律用語を読み込んで準備することと、38人いる委員の中で「障害女性」は二人だけなので、障害女性の複合差別などの課題を理解してもらうことが大変です。

:なるほど。やはり誰にとっても分かりやすい言葉や、考え方、会議の構成や運営など根本的な部分から、ユニバーサルデザインの考えを取り入れることが必要ですね。

香り革命で世界が変わる!?

:松森さんは、「ユニバーサルデザイン」をコンセプトに様々な活動をされてきていますが、「字幕」もかなり力を入れていますよね。

:私は映画が好きでよく観るんですが、2014年に公開された邦画は615本あって、そのうち、公開時に日本語字幕付きで上映された作品は66本でした(※2)。これって少し寂しいことだなと思います。

:日本人なのに日本の映画が楽しめないということですね。日本では、生活を維持することについてはフォローをしますが、それ以上の例えばエンタメのような部分での情報保障は贅沢だという意識がある。そういうところに予算をつけられるようになったときに、本当の意味での心の豊かな国になれるのかもしれませんね。

:ええ。テレビは、ほとんどの番組が字幕対応をしていますが、CMは字幕対応していません。番組が見観られればいいじゃないかという考えもあるかもしれませんが、面白いCMは私たちだって、みなさんと同じように知りたいんです。

:確かにそうですね。番組が観られればいいというのは、まさに健常者的な考えで、ユニバーサルデザイン的ではないですね。

:企業は障害の有無でお客様を区別することなく、情報を等しく伝える責任がありますよね。CMにも字幕をつければ、約2000万人もいる聞こえない人や、聞こえにくい人たちをマーケティングに取り込むことができるんですよ。そんなことを提案し続けて18年、実現するまで頑張りますよ。(※3)

:そして、松森さんの活動で、もうひとつ気になったのが、「香り」を使った取り組みでした。わさびの香りを使った火災警報器を開発されたんですよね?

:においで危険を知らせる提案と、開発にあたってのアドバイスをしました。わさびは、覚醒作用があるので、熟睡状態でも目覚めることが臨床試験でも証明されています。健常者よりも聴覚障害者の方がにおいに敏感なことも分かりました。ツンとする香りなんですよね。

:それで、イグノーベル賞を受賞したんですよね?

:そうなんです。私は提案とアドバイスをしただけなので、受賞メンバーにははいっていませんがスゴイですよね。いまは、香りマーケティング協会(※4)の顧問をしているので、香りを使ったユニバーサルデザインの推進をしたいなと思っています。昨年は「香り-1グランプリ」といって全国ご当地の精油や香りを使った製品やお菓子などを集めてグランプリを決定する日本初のイベントを行いました。グランプリを獲った広島の「レモン谷のレモン精油」や、富士山をイメージした「PARFUM FUJI」など、地域の香りって素敵ですよね。地域振興賞を受賞した佐世保市のみかん農家では、出荷できないみかんを有効活用する工夫をされています。

:香りで地方創生ができますね。いい香りがする街っておもてなしだと思いますし、その場所その場所での固有の匂いがするっておもしろいと思うんですよね。例えば、困ったらわさびのする香りがするところに行けばいいとか。そうゆう、言語を超えたコミュニケーションに、香りは使えるんじゃないかと思います。

:まさに言語を超えますね。私が香りに興味を持ったきっかけは、南フランスのとある施設の事例でした。その施設には、様々な障がいのある人がおり彼らに人気のプログラムは、「プール開放日」でした。プールがある日は、「レモン」の爽やかな香りを館内に漂わせて知らせているんですって。

:なるほど!素晴らしいアイディアですね!実用性はもちろん何よりワクワクしますね!そしてオシャレ!

:「香り」って誰にとっても有効な情報なんだなと思いました。ユニバーサルデザインのひとつのキーになるんじゃないかと思います。

:そう思います!「香り」は目に見えないけれどもあなどってはいけませんよね。実は私、「きたパン」という北区の非公式ゆるキャラのプロデュースもしているんですが、カステラをモチーフにしたキャラなので雰囲気作りで甘い香りの香水を吹きかけていたんですね。そしたら、「甘い香りのゆるキャラ」ということで、小さいお子さんからも愛されるキャラに育ったということがありました。

:そうなんですね。ぜひ、きたパンの匂いをかいでみたいです(笑)

:実は、きょうたまたま持ってまして……。(カバンからきたパンにつけている香水を取り出す)

:(香水を受け取って)あ、本当だ。甘い香りがしますね。おいしそう(笑)

どうしたら音喜多は結婚できる?

:最後の質問になりますが、どうしたら、僕は結婚できると思いますか?

:そうですねぇ。ご自分ではどうして結婚できないとお思いですか?

:性格かなぁ?仕事かなぁ?結婚生活をブログでさらされそうと言われたこともあるしなぁ……。

:家事や育児についてはどうですか?

:趣味は料理です。お正月には出汁からお雑煮を作ったりとかしますね。その際は(中略)と、まぁけっこう好評でしたよ。あと、掃除もちゃんとします。特に水回りについては徹底的に(中略)とにかく臭いのは絶対に許せません!

:そ、そうですか。

:あと、育児についてですが(中略)このように私はフランス流の子育てを持論で掲げておりますのでその点をしっかりと(中略)子どもの運動会では圧倒的なパフォーマンスを発揮する自信があります!

:とてもこだわりが強いんですね。でも、色々してくれそうなので、もし、私が独身だったら、「いいな」って思うかもしれません。

:ありがとうございます!でも、松森さんが掃除したあと、気に入らなければやり直したりしますがいいですか?

:ごめんなさい。やっぱりナシですね(笑)

:そうですか。あははは……。

おときたの感想

『「ユニバーサルデザイン」とは、誰もが快適に暮らせるための社会を作るために、少しずつ意見を取り上げて進化していく、スパイラルアップ(好循環)』という言葉が非常に印象的でした。政治の世界における様々な政策も、一朝一夕に変わっていくものではありませんが、異なる意見をすりあわせてスパイラルアップしていくことが重要なのだと感じます。
異なる価値観こそ大切にしながら、引き続き、私自身が障がい者と政治の世界をつなげる存在を目指していきたいと思います。

※1 障害者政策委員会
障害者基本法が平成23年8月に改正され、障害者基本計画の策定又は変更に当たって調査審議や意見具申を行うとともに、計画の実施状況について監視や勧告を行うための機関として内閣府に設置された。(内閣府HPより)
※2 字幕付き映画の本数
「映画上映に関するバリアフリー対応に向けた障害者の視聴環境のあり方に関する調査事業報告書」
http://npo-masc.org/20150522/
※3 松森さんのCMへの字幕提案活動
CM字幕応援団
https://www.facebook.com/cmjimaku
※4 香りマーケティング協会
香りのビジネス及びマーケティングの推進や標準化を目的とし、香りによる地域活性等にも力を入れている。
http://fragrance-marketing.org/
撮影協力:Neues(ノイエス)http://www.neues.jp/
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音喜多駿

音喜多駿/おときたしゅん
参議院議員(東京都選挙区) 39歳
1983年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ社員を経て、2013年東京都議会議員に(二期)。19年日本維新の会から公認を受けた参院選東京都選挙区で初当選。21年衆院選マニフェストづくりで中心的役割を担う。
三ツ星議員・特別表彰受賞(第201~203国会)
ネットを中心とした積極的な情報発信を行い、ブログを365日更新する通称「ブロガー議員」。ステップファミリーで三児の父。
著書に「ギャル男でもわかる政治の話(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」、「東京都の闇を暴く(新潮社)

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