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認知症患者の「自らの意志」はいつまで、どのように計れるか? -オランダ安楽死事情から考える-

日々のこと

こんばんは、おときた駿@ブロガー都議会議員(北区選出)です。
昨日今日のオランダ視察の行程内には、こちらも世界でオランダが最も先進的な

「安楽死(尊厳死)」

についてが多く含まれておりました。

直接的には都政とは関係がなく、またこの分野は非常に議論が多岐に渡るので
論文でも書かなければ網羅ができないのですが…非常に示唆に飛んでおりますので、
一部分だけでもお伝えさせていただきたいと思います。

オランダは2002年に世界で初めて「安楽死」を法制化した国で、
法制化前から様々な判例によって事実上の安楽死を行っておりました。
この実行には多くの厳密な要件があり、その最も大事なファクターが

「本人による、熟慮された要請」

です。

患者は家庭医に安楽死の意志を伝えた後にその担当医師と、
セカンドオピニオンを得るための別の医師の計2人以上に
「熟慮された上での要請である」という『お墨付き』をもらわなければなりません。

オランダでは安楽死を実行後、地域に設置された「審査委員会」という組織が
その安楽死は適切なものであったかの審査を行い、問題があれば起訴される可能性もあります。

そこでも一番に重視されるのは「本人からの熟慮された要請があったか」という点で、
安楽死をする上で自己決定・意志というものを極めて尊重していることがわかります。

しかしながら…
「本人の意志」というのはどの段階で、どのように確認するのでしょうか?
すぐに我々が思い至るのは、認知症などの疾患に掛かったケースです。

「家族や他人に迷惑をかけたくない。自分が認知症になったら◯◯してくれ」

◯◯にはオランダであれば安楽死や、
日本であれば介護ホーム入居などが挙げられるでしょう。
しかしその意志は、いつ心変わりするかもわかりません。

「やはり死ぬ時まで、家族と一緒にいたい。自分の家から出たくない」

そう認知症患者が言い出した時、
それは病気がそうさせているのか、本当に心変わりをしたのか…
この判断は極めて難しい物になります。

「リビング・ウィル」と呼ばれる、公的な意思表示をしておくシステムがありますが、
オランダではこれだけでは充分ではなく、認知症になった患者と医師たちが
何度も面談をして安楽死の意志を確かめます。

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(安楽死を推進する団体「Naav」が発行しているリビング・ウィルのフォーマット)

ところがこうなると、認知症の初期患者であれば安楽死が実行しやすいが、
後期認知症患者になると安楽死が認められづらいという事象が発生します。

オランダでも認知症患者の安楽死実施のケースは増加しており、
初期の認知症患者の場合、審査委員会で引っかかることはほぼありません。

しかしながら、意思表示が難しい状態まで行ってしまった患者のケースでは、
審査委員会内や、その結論を巡って大きな議論を呼び起こすことが多いそうです。

すると、どういったことが起きるか。

初期認知症患者やその家族は、「焦り」に駆られることになります。
もう少し長生きしたいが、これ以上認知症が進んだら安楽死できなくなる…
そうなる前に、もう早いうちに安楽死を選んだ方が良いのではないか。。

「自らの意思決定」

に重きを置くオランダ社会はいま、この深刻なジレンマに悩んでいます。
後期認知症患者の安楽死も、審査委員会が認めたケースは既にあるものの、
その審査結果を巡っては歴代の保健福祉大臣が

「要件を厳密に守れば、認知症患者の安楽死は実施できない」
「複数の手段を用いれば、認知症患者の意志を認定することは不可能ではない」

異なる見解を示している状態です。

まだ患者が、家族を認識できている段階で死を選ぶ。
まったく別人となった患者が、何年も家族とともに過ごす。

どちらの方が本人にとって、家族にとってつらいことなのか…
オランダでは今日も、議論が続けられています。

肉体の寿命が著しく伸びた現代において、
認知症の問題は日本でも加速度的に深刻さを増していきます。

別人のように変わってしまった患者の意志を、
どの段階で・どのように判断をして尊重をするべきか。安楽死に限らずとも、
我々がこれからしっかりと向き合っていかなければならない問題です。

とにかくオランダの凄いところは、

「目の前のリアル(現実)から逃げない」

点に尽きます。
安楽死も、同性愛も、大麻の売買も、売春も、実際にそこにある。
ならばごまかすことなく、正面から議論をしようではないか。

その結果、多くの国々では教条的に否定されたり、
「なかったこと」になっているものが法制化されてコントロールされるなど、
世界で最も先進的な政策決定を行う国になっています。

ソープランドは浴場で偶然出会った男女が恋仲になったものであり、
パチンコ屋の隣に換金所があるのは偶然である、としている我が国とは
彼我の差を感じざる得ません(苦笑)。

現在日本でも安楽死(医療行為の意図的な終了)が議論されているところですが、
私もいち政治家・国民の一人として正面から考えていきたいと思います。

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(本日お話を伺ったNaavのロバート氏と)

安楽死に関心がある方は、こちらの書籍をご一読下さいませ。
※この著者の方が、今回のオランダ視察の通訳さんでした!

安楽死を選ぶ オランダ「よき死」の探検家たち / シャボットあかね

いよいよ視察も終盤、残り2日はイギリスで児童養護関係をみっちりです。
それでは、また明日。

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音喜多駿

おときた駿
参議院議員(東京都選挙区) 40歳
1983年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ社員を経て、2013年東京都議会議員に(二期)。19年日本維新の会から公認を受けた参院選東京都選挙区で初当選。21年衆院選マニフェストづくりで中心的役割を担う。
三ツ星議員・特別表彰受賞(第201~203国会)
ネットを中心とした積極的な情報発信を行い、ブログを365日更新する通称「ブロガー議員」。ステップファミリーで三児の父。
著書に「ギャル男でもわかる政治の話(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」、「東京都の闇を暴く(新潮社)

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