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民間の力を活かせ!
スリムな行政でスマートな社会へ

2013年3月16日、都営新宿線と東京メトロ半蔵門線の九段下駅のホームを隔てていた一枚の壁、通称「バカの壁」が完全に撤去されました。
この一枚の壁の撤去には約12億円(※1)の費用がかかりましたが、「ラッシュアワーでは5分近くかかっていた乗り換えが、数秒ですむようになる(※2)」という大きな効果がありました。

では、今まで「バカの壁」を撤去できないでいたのは、一体なぜなのでしょうか。
そして、「バカの壁」が存在するのは、果たして九段下駅だけなのでしょうか。

※1 変わる東京の地下鉄九段下駅「バカの壁」撤去、3月16日から便利に通信も充実
http://sankei.jp.msn.com/region/news/130218/tky13021822460008-n1.htm
※2 地下鉄一元化を阻む「バカの壁」に穴があいた
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120625/313749/?rt=nocnt

1. 「バカの壁」撤去までの経緯

「バカの壁」の撤去が決まったのは、現知事(当時副知事)である猪瀬氏の提案からでした。
地下鉄一元化を掲げていた猪瀬氏は、利用者に不便を強いている例として、九段下駅の「バカの壁」を取り上げました。そして、2010年6月17日の視察から2年半近くが経過し、ようやく完全撤去に至ったのです。

猪瀬氏は「バカの壁」が存在していた理由について、「かつての営団地下鉄、現在の東京メトロと、都営地下鉄が、別々の会社である」(※3)ことを挙げています。
つまり、民営化したとは言え、依然として国が筆頭株主である東京メトロでは、国の意向なしに物事を決めることができず、そのことが長い間「バカの壁」を壊せない最大の障害となっていたのです。

もちろん、地下鉄一元化自体には賛否両論があり、慎重に進めていくべき性格のものではあります。一方で、猪瀬氏からは「民主党政権の間に、国土交通大臣が5人も代わってしまっているので、途中まで話が進んでも、決裁ができない」(※3)といった問題点が指摘されるなど、「決められない政治」の一端をここでも見て取ることができます。

国が過剰に権限を有していながら、それを適切に行使できないために、国民に不便を強いている。この一連の経緯からは、そんな姿を容易に想像することができます。

加えて、「東京メトロは東京都大田区中馬込の1.3ヘクタールの広大な敷地に新しく社宅を建てようとしている。余った資産を利用者に返すのでなくて、自分たちの職員のために使おうとしている。」(※3)といった批判が猪瀬氏からはなされており、「バカの壁」の存在の遠因に既得権益があることが示唆されています。

※3 「東京メトロと都営地下鉄は一元化できる」すべての疑問に答える――6月21日猪瀬直樹会見速記録
http://www.inosenaoki.com/blog/2012/06/post-772b.html

2. 至るところに存在する「バカの壁」

それでは、「バカの壁」が存在するのは九段下駅だけなのでしょうか。
もちろん、そんなことはありません。

例えば、待機児童問題などはその最たるものです。

近年、保育所利用率が右肩上がりになるに従い、待機児童数も同じような右肩上がりのカーブを描いています。その結果、待機児童問題はますます深刻なものとなり、杉並区、足立区、大田区等では、認可保育所の入所許可がもらえなかった子供の母親らが、自治体に異議を申し立てをするケースが相次ぎました(※4)。

背景には、認可保育所の絶対的な不足があります。認可保育所は国が定める安全基準を満たした上で、国などから運営費補助があることが一般的です。そのため、経営基盤が弱く、利用料が高くなりがちな民間の認可外保育所と比べて、認可保育所に人気が集中する構図となっています。

認可保育所と認可外保育所の間に存在する「バカの壁」を撤去すること。
それが政治に求められている役割ではないでしょうか。

他にも、市販薬のインターネット販売の問題なども「バカの壁」の例として挙げられるでしょう。

「店舗での対面販売は安全だが、通信販売は危険である」との考えからインターネット販売を禁止した厚生労働省令は最高裁判所で違法とされました。しかし、今度はインターネット販売を禁止するために薬事法の改正が検討されています。

「本当に対面販売の方が通信販売よりも安全なのか」、「本当にインターネット販売によって国民の安全は脅かされるのか」といった点を十分に検討せずに規制強化に邁進する姿は、
まさに「バカの壁」と呼ぶべき状況でしょう。

ここで挙げた例に共通することは、行政による偏った支援や規制が、結果として国民の利益を損なっているというところにあります。もちろん、「安全」や「安心」を保証することは政府としての重要な役割であり、否定されるべきことではありません。

しかし、果たして国民は政府にすべてを委ねないと判断できないほどに無知なのでしょうか。

※4 「待機児童」年々深刻化…なぜ認可保育所が人気なのか
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130328-00000543-san-soci

3. 「バカの壁」撤去のために

「バカの壁」撤去のヒントとなるのは、行政のスリム化です。
なぜなら、「バカの壁」の多くは既得権益を背景としているからです。

象徴的な例として挙げられるのが、道路公団民営化後のSA(サービスエリア)・PA(パーキングエリア)です。

道路公団民営化前の状況を知っている人は、SA・PAのトイレや食事に対してあまり良いイメージを持っていなかったのではないかと思います。
しかし、道路公団民営化後の現在では、SA・PAにコンビニやドラッグストアが出店するなど、そのサービスはかなり向上しています。中には、デパ地下やショッピングセンターと遜色のない施設まで出現するほどです(※5)。

実際、民営化前のSA・PAの運営はそのほとんどを天下り団体が独占しており、既得権益となっていました。このような状況では、サービスの質が低くなるのも自明のことでしょう。
一方で、民営化後には健全な競争が起こることで、サービスの向上を通して、利用者に利益が還元されています。

それでは、こうした発想を先に挙げた問題に適用するとどうなるでしょうか。

例えば、待機児童問題については、保育バウチャーのような制度で認可保育所と認可外保育所の間に存在する「バカの壁」を取り除くことが考えられます。これにより、認可保育所の既得権益は失われるため、保育所間の競争を促し、認可・認可外に限らずサービス水準が高い保育所が支持されることとなります。

市販薬のインターネット販売の問題では、危険だからやめるのではなく、どうすれば広範に安全性を確保できるかという観点から、民間の知恵を借りる必要があります。
SA・PAに既存のコンビニやドラッグストアが参入したように、「バカの壁」を越えて業界のルールを確立することができれば、国民の安全にもっとも寄与するのではないでしょうか。

もちろん、すべてにおいて競争が優先されるわけではありません。しかし、既得権益を背景とした「バカの壁」が存在する限り、問題の解決は望めないのです。

※5 これぞ民営化効果!? 高速道路サービスエリア最新事情
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0810/01/news098.html

4. スリムな行政でスマートな社会へ

経済学の用語に「規制の虜(RegulatoryCapture)」という言葉がありますが、これは「規制機関が規制対象に支配されてしまう」現象のことを意味しています。

行政のスリム化が望まれるのは、まさにこの「規制の虜」を抑えることを意図しているからです。

東電による原発事故が明らかにしたように、本来国民を守るはずの政府の規制が骨抜きにされたときに、悲惨な事態は生じます。
それに対抗するためには、単に規制を強化するのではなく、意味のない規制を緩和・撤廃することで、民間のスマートな知恵を活用することが必要なのです。

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